土地売買と境界―六本木ヒルズの開発ですら、境界の確定に4年かかりました

――あなたの土地に「戸籍」はありますか。境界問題の全体像を掘り下げます

東京・六本木の中心部、あの巨大な複合施設が建つ前、開発事業者を4年間も足止めした問題があります。境界の確定です。現地の約400筆、およそ11ヘクタールにおよぶ土地の境界調査に、実に4年もの歳月が費やされました。大企業が、潤沢な予算と専門家チームを投じても、これだけの時間がかかる。境界というものが、いかに一筋縄ではいかないテーマかを、象徴する出来事です。

境界があいまいな土地は、査定の手前で止まります。以前の記事でお伝えしたこの一言の裏側には、日本の土地制度そのものが抱える、構造的な事情があります。今回は、境界にまつわる懸案事項を、もう一段深く掘り下げます。

1. 「筆界」と「所有権界」は、別のものです

境界という言葉には、実は2つの異なる意味があります。1つは「筆界(ひっかい)」。不動産登記法123条で定義される、登記上の境界です。これは、当事者どうしの話し合いで、勝手に変更することができません。もう1つは「所有権界」。実際の利用状況に基づく境界で、こちらは当事者間の合意によって変更が可能です。

普段の生活では、この2つはほとんど意識されません。しかし、長年の使用や、過去の口約束によって、塀やフェンスの位置と、登記上の筆界が、少しずつずれてしまっていることがあります。このズレに気づかないまま売買が進むと、後々のトラブルの火種になります。

2. なぜ、境界は分からなくなるのか――日本全体の構造的な遅れ

境界があいまいになる背景には、個々の土地の事情だけでなく、日本全体の制度的な遅れがあります。「地籍調査」という、土地の境界と面積を公的に確定させる調査があるのですが、国土交通省の発表によれば、令和7年度末時点での全国の進捗率は、53%にとどまっています。つまり、日本の土地のおよそ半分は、いまだに公的な境界確定が済んでいないのです。

しかも、この遅れは都市部ほど深刻です。土地が細分化され、権利関係が複雑な都市部(人口集中地区)では、地方に比べて調査がさらに難航する傾向があります。地籍調査そのものは、市区町村ごとに国の計画に沿って進められていますが、都市部では相続や売買のたびに関係者が増え、境界確認の合意形成自体が難しくなりやすい、という事情があります。

3. 境界が未確定のまま売ると、いくら安くなるのか

境界が確定していない土地は、実際に価格へ影響します。専門家の間では、境界が明確な場合と比べて、5〜10%程度、査定額が下がるとされることがあります。5,000万円の土地であれば、250万円から500万円もの差です。買う人にとって、境界が未確定な土地は、将来、隣地との紛争に発展するかもしれない「見えないリスク」を抱えた土地に映るためです。

4. 現況測量と確定測量、何が違うのか

測量には、大きく分けて2つの種類があります。「現況測量」は、現場で確認できる既存の杭や境界標をもとに、隣地所有者の合意を得ずに測る、簡易的な測量です。一方「確定測量」は、隣地の所有者に実際に立ち会ってもらい、同意を得たうえで境界点を確定させる、正式な測量です。確定測量で作成される「筆界確認書」に、隣地所有者の署名・捺印をもらうことで、法的にも通用する測量図になります。

測量の種類と費用の目安

種類

費用の目安

期間・特徴

現況測量

10万〜30万円

隣地所有者の立会い不要、1週間程度で完了

確定測量(民民のみ)

30万〜80万円

隣地所有者の立会い・同意が必要、1〜3か月程度

確定測量(官民含む)

50万〜100万円

道路・水路等の官有地とも境界確認が必要、さらに時間がかかる

 

なお、自治体によっては、測量費用の一部を補助する制度を設けているところもあります。お住まいの市区町村に、境界確定や地積測量に関する補助金制度がないか、確認してみる価値があります。

5. 隣地の所有者が、立会いを拒否したら

以下は理解のための比喩的な解釈であり、学術的な定説ではありません。

地籍調査は、しばしば「土地の戸籍」と呼ばれます。人に戸籍があるように、土地にも、本来、公的に確定された記録があるべきだという考え方です。しかし、戸籍が整っていない土地では、隣地の所有者が遠方に住んでいたり、相続で権利関係が複雑になっていたり、あるいは単に、立会いそのものに協力してもらえなかったりすることがあります。

そうした場合の切り札が、「筆界特定制度」です。法務局の筆界特定登記官が、土地家屋調査士などの筆界調査委員の意見を踏まえて、公的に筆界を判断してくれる制度です。裁判で決着をつける「境界確定訴訟」は、数年単位の歳月と高額な費用がかかりますが、筆界特定制度であれば、隣接地の所有者の同意がなくても申請でき、裁判より短期間・低コストでの解決が期待できます。

6. 越境物は、放置せず「覚書」を残す

隣地の樹木の枝や、塀の基礎部分が、境界を越えて自分の土地に入り込んでいる、あるいはその逆——これが越境です。多くの場合、すぐに大きな問題になるわけではありませんが、売却の場面では、必ずと言っていいほど確認される項目です。越境が見つかった場合は、口約束で済ませず、「越境物に関する覚書」を隣地所有者との間で取り交わし、書面として残しておくことをおすすめします。将来、建て替えや売却の際に、この覚書があるかないかで、話の進み方が大きく変わります。

7. ある土地の場面から(※特定の個人・事例ではなく、複数のご相談から合成した一般化された想定シーンです)

親から相続した実家の土地を売却しようとした際、境界標の一部が見当たらないことが分かりました。隣地は、数年前に別の方が購入した土地で、境界について詳しい経緯を知る人が、双方ともいませんでした。

確定測量を依頼し、隣地所有者に立会いを依頼したところ、当初は「今さら境界の話をされても」と難色を示されました。土地家屋調査士から、制度の趣旨や、今後もし建て替えや売却の際に同じ問題が起きることを丁寧に説明してもらい、最終的には立会いに応じてもらえました。境界確認書を取り交わし、売却は無事に完了しましたが、当初の想定より、2か月ほど時間がかかりました。

もし、もっと早い段階で、境界の状態を確認していたら。売却のスケジュールは、もっと余裕を持って進められたはずです。

8. 早めに「土地の戸籍」を、確認してください

境界の問題は、多くの場合、売却を決めてから初めて表面化します。しかし、測量には時間がかかり、隣地所有者との調整が難航することも珍しくありません。売却を具体的に考え始める前の、できるだけ早い段階で、境界標の有無、測量図の有無、越境物の有無を確認しておくことが、後々の時間とコストを大きく左右します。

ご自身の土地に「戸籍」があるかどうか、まだ確認されていない場合は、当社または土地家屋調査士まで、お気軽にご相談ください。

急がない・急かさない、市場の全体像をご覧いただき、価格の根拠や価格設定の疑問に正直にお答えし納得できるお取引を目指す不動産会社は当社です。笑顔の取引が第一の不動産会社は当社です。

 

住宅流通合同会社

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参考・出典

●        国土交通省「『土地の戸籍』に関する最新の調査実施状況を公表します」(令和7年度末時点、進捗率53%)

●        地籍調査Webサイト「全国の地籍調査実施状況」

●        参議院事務局「進捗が遅れている地籍調査の現状と今後の課題」(立法と調査2015.10 No.369、六本木ヒルズの境界調査事例)

●        不動産登記法123条(筆界の定義)、131条〜146条(筆界特定制度)

●        SUUMO住まいの売却ガイド「不動産売却に境界確定測量は義務?」

●        長谷工の仲介「確定測量とは?必要性や現況測量との違い、期間・費用について」

●        アガルート「境界確定測量の費用相場はどれくらい?」「測量費用の相場はどれくらい?」

●        なないろ土地査定「境界確定の費用と方法|測量費用の相場」

●        民法 相隣関係、建築基準法、都市計画法

本記事は一般的な制度の説明です。個別の境界問題については、土地家屋調査士・法務局・当社にご確認ください。