結論(先出し)
この記事は、3つの疑問にお答えします。難しい言葉が多いテーマなので、できるだけ日常の例に置き換えながら説明します。
● ①「契約不適合責任免責」は、契約書にどんな文章で書かれるのか
● ②売主は、免責の内容を必ず口で説明(読み上げ)しなければならないのか
● ③物件の状態を伝える書類(物件状況報告書)は、誰が書くべきなのか
先に結論だけまとめます。①契約書には「一切責任を負いません」という趣旨の文章が、いくつかのパターンで書かれます。②読み上げ・説明は、法律で決められた義務ではありませんが、後で揉めたときに自分を守る材料になります。③物件状況報告書は、売主本人が書くのが原則で、業者が代わりに書くと、後々のトラブルの種になりやすいです。順番に説明します。
① 契約書には、免責がどう書かれるのか
「契約不適合責任は免責にします」という取り決めは、契約書の中に、次のようないくつかのパターンで書き込まれます。専門用語のままだと分かりにくいので、一つずつ、やさしい言葉に置き換えます。
パターン1:すべての責任を免除する
条文の例
「売主は、買主に対し、本件物件に関し、契約不適合を理由とする追完請求、代金減額請求、契約解除、損害賠償等の責任を負わない。」
かんたんに言うと:引き渡した後に何か問題が見つかっても、売主は一切対応しません、直しません、お金も返しません、という意味です。
たとえば: 引き渡し後に給湯器が壊れていた、シロアリの被害が見つかった、という場合でも、売主に「直してください」「その分安くしてください」とは言えなくなります。
パターン2:設備についての書類自体を作らない
条文の例
「本契約にかかる一切の契約不適合責任、および設備の修補責任を負わない。これに伴い、本契約においては別紙「設備表」を作成しないものとする。」
かんたんに言うと:建物だけでなく、キッチンやお風呂などの設備について「何がついているか」「壊れていないか」を書く書類そのものを作らない、という意味です。
たとえば: 引っ越してからエアコンが動かない、給湯器が壊れていた、という場合でも、そもそも「設備の状態を約束した書類」自体が存在しないため、話し合いの土台がなくなります。
パターン3:賠償する金額に上限を決めておく
条文の例
「売主の買主に対する損害賠償責任は、金●●万円を超えないものとする。」
かんたんに言うと:何かあっても、賠償するのはここまで、と天井(上限)を先に決めておく、という意味です。
たとえば: 上限を100万円と決めておけば、たとえ被害額が300万円に膨らんでも、売主が払うのは100万円までで済みます。
パターン4:責任を負う期間を区切っておく
条文の例
「売主は、買主に対し、契約不適合責任を、本件物件の引き渡しをした時から、●か月以内に限り負う。」
かんたんに言うと:「引き渡しから〇か月以内に見つかったことだけ責任を持ちます」という約束です。その期間を過ぎたら、何が見つかっても対応しません。
たとえば: 期間を3か月と決めた場合、引き渡しから2か月後に雨漏りが見つかれば対応してもらえますが、4か月後に見つかった場合は対応してもらえません。
実際にどのパターンを使うか、複数を組み合わせるかは、物件の状態や売主・買主の話し合いによって決まります。契約書にどう書かれているかは、必ずご自身の目で確認してください。
② 売主は、免責の内容を読み上げないといけないのか
これは、多くの方が誤解しやすいポイントです。結論から言うと、「読み上げなければならない」という法律はありません。ですが、「読み上げても読み上げなくても同じ」というわけでもありません。この関係を、身近な例で説明します。
たとえば:携帯電話の契約 携帯電話を契約するとき、長い利用規約に「同意する」とチェックを入れてサインしますよね。店員さんが規約の大事なポイントを口で説明してくれた場合と、何も説明せず「ここにサインしてください」とだけ言われた場合を比べてみます。 どちらの場合も、サインをした以上、契約自体は基本的に有効です。 でも後になって「そんな条件があるなんて知らなかった」と揉めたとき、店員さんが説明していれば「ちゃんと説明しました」と主張でき、お店側が有利になります。説明していなければ、お店側は「知らなかったと言われても仕方ない状況を自分で作ってしまった」ことになり、不利になりやすいのです。
不動産の免責条項も、これとまったく同じ関係にあります。
● 読み上げ・説明をしなかったからといって、それだけで契約が無効になるわけではありません(契約書に書いてサインした以上、原則は契約書通りに拘束されます)。
● しかし、後で「そんな条項、知らなかった」と揉めたとき、説明していたという記録があれば、売主・仲介業者にとって有利な材料になります。
つまり、「読み上げなければ裁判に負ける」のではなく、「読み上げておけば、揉めたときに勝ちやすくなる」という関係です。読み上げ・説明は、法律で決められた義務ではなく、後日のトラブルに備えるための、いわば保険のようなものだと考えてください。
③ 物件状況報告書は、誰が書くべきなのか
物件の状態(雨漏りやシロアリの有無、設備の故障歴など)を買主に伝える書類を、「物件状況報告書」や「告知書」と呼びます。この書類、実は「売主が書くもの」と決まっています。
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内容 |
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原則 |
売主本人が記入する。物件状況報告書の作成は、宅建業法上の「仲介業務」に含まれていない |
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理由 |
物件の過去の不具合や履歴は、所有者である売主本人しか本来知り得ない事実だから |
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業者が代筆した場合のリスク(売主側) |
「言ったのに書かれていない/自分はそう認識していない」という水掛け論が起きやすい |
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業者が代筆した場合のリスク(業者側) |
本来は仲介業務の範囲外の書類に手を出すことで、記載ミスが業者自身の過失として問われる可能性が生まれる |
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望ましい進め方 |
業者は書式・記入項目のガイドを提供する。売主が記入に迷えばヒアリングで手伝ってよいが、最終的な文言は売主自身が確認し、署名・押印する |
たとえば:シロアリの話が業者経由で伝わらなかった場合 売主が「5年前にシロアリの被害があって、駆除業者に頼んで対応した」と知っていたとします。この情報を、業者が売主から話を聞いて書類にまとめたとして、もし業者が聞き間違えたり、書き忘れたりしたらどうなるでしょうか。 後で買主がシロアリの跡を見つけたとき、売主は「言ったのに書類に書かれていない」と言い、業者は「聞いていない」と言い、水掛け論になります。 売主自身が自分の手で書いていれば、この水掛け論はそもそも起きにくくなります。
業者が忙しい売主に代わって書類を作ってあげたい、という気持ちは理解できます。しかし、物件状況報告書は、そもそも仲介業者の業務の範囲に含まれていない書類です。ここに業者が手を出すと、売主にとっても業者にとっても、後々のリスクが大きくなります。
実務としては、業者は書式(どんな項目を書けばよいかのひな形)を渡す役割にとどめ、実際の記入は売主本人が行うのが安全です。記入に迷う場合は業者がヒアリングして手伝ってもかまいませんが、その場合も、最後に売主自身が内容を読み直し、「これは自分の認識と合っている」と確認したうえで、署名・押印することが大切です。
反対に、事実を確認していないのに「シロアリの可能性があります」のような、根拠のない表現をとりあえず書き並べることも避けましょう。かえって買主の不信感を招いたり、免責の効果を薄めたりすることがあります。把握している事実を、具体的に書くことが基本です。
出典一覧
● 民法第572条、第95条、消費者契約法第8条、宅地建物取引業法第40条
● 虎ノ門桜法律事務所「【不動産売買】契約不適合責任の免責条項とその有効性」
● ダーウィン法律事務所「不動産売買における契約不適合責任の免責特約の有効性と注意点を解説」(東京地判平成7年12月8日)
● f-yakucho.com「契約不適合免責の特約|例文・条文【テンプレ】」
● みらいえふぁーむ「不動産売買契約書の解説 第20条『契約不適合責任』」
● そこに住むならbyスムナラ「物件状況報告書とは?トラブルを回避する6つの作成ポイント&注意点」
● 三井住友トラスト不動産「不動産売買のときに気をつけること~『告知書(物件状況報告書)』」
● staylinx「『物件状況報告書』を解説!虚偽記載は損害賠償!?」
● フドログ「【不動産売買】物件状況報告書(告知書)について確認しておこう!」
● MIRAI不動産株式会社「不動産売却時に重要な事実を告知する書面、物件状況等報告書と付帯設備表について詳しく解説!」
まとめ
免責条項には決まったパターンがあり、内容によって「何が免除されるか」が大きく変わります。読み上げ・説明は法律上の義務ではありませんが、後日の紛争に備える保険のような役割を果たします。そして、物件状況報告書は売主本人が書くのが原則であり、業者が代筆すると、売主にも業者にも新たなリスクが生まれます。
いずれも、難しい法律の話のように見えますが、行き着く先は同じです。「誰が、何を、どこまで正確に伝えたか」という記録を、きちんと残しておくこと。それが、契約後のトラブルを防ぐ、いちばん確実な方法です。
なお、本記事は一般的な内容の整理を目的としたものであり、個別の契約内容の有効性や法的な判断については、弁護士等の専門家にご確認ください。