じゅりれなよ永遠に -2ページ目

じゅりれなよ永遠に

じゅりれな・坂道小説書いてます。

翌日の土曜日、

雲ひとつない青空が、

咲月の重い心とは裏腹に広がっていた。

 

待ち合わせ場所に現れた和は、

ほとんど眠れていないのか

目の下にうっすらと隈をつくり、無言だった。

 

遠藤さくらの住むマンションへと

向かう道すがら、

二人の間に会話はなかった。

 

ただ、和は咲月の右手を、

まるで命綱のように強く、強く握りしめている。

 

その指先から伝わる、か細い震え。

 

頼られている。

 

その事実だけが、今の咲月にとって唯一の、

そしてあまりにも切ない幸せだった。

 

やがて、目的のマンションの前に着く。

 

和は一度固く目を閉じ、

深く息を吸い込むと、

震える指でスマートフォンを取り出した。

 

コール音が数回鳴った後、

電話が繋がったらしい。

 

短いやり取りを終え、

和は「…すぐ、降りてきてくれるって」と力なく呟いた。

 

エントランスの自動ドアが開き、

遠藤さくらが姿を現す。

 

咲月は咄嗟に、少し離れた電柱の陰に身を隠した。

 

和は、決心したようにさくらの元へと歩み寄る。

 

距離があって、二人の会話は聞こえない。

 

けれど、咲月の目には、

その全てがスローモーションのように焼き付いていく。

 

 和が何かを問い詰め、

さくらの顔が驚きに強張り、

そして深く、深く頭を下げた。

 

和の肩が小さく震える。

 

ああ、やっぱり…。咲月の心臓が、

痛みを伴って高鳴る。

 

さくらは顔を上げ、

必死の形相で何かを訴えかけていた。

 

和が一番好きだ、信じてほしい、と。

 

その言葉が、

咲月の耳にはっきりと聞こえた気がした。

 

 長い沈黙の後、和はゆっくりと頷いた。

 

 次の瞬間、さくらが和の体を強く抱きしめた。

 

和もまた、その背中にそっと腕を回す。

 

――見たくない。

 

咲月は思わず目を逸らした。

 

自分があれほど望んだ腕の中に、和がいる。

 

でも、その腕は自分のものではない。

 

二人が愛を再確認する光景は、

咲月の心を粉々に砕くには十分すぎた。

 

ガラスの破片を胸に押し込まれたような、

鋭い痛みが全身を貫く。

 

やがて二人は体を離し、

さくらが優しく和をマンションの中へと誘った。

 

和は、エントランスのドアをくぐる直前、

ふとこちらを振り返った。

 

咲月の存在に気づいていたのだ。

 

その目に「ありがとう」という色が浮かんでいる。

 

咲月は、喉の奥から込み上げる嗚咽を

必死にこらえ、力の限り、笑顔を作った。

 

そして、声にならない唇の動きで伝える。

 

(よ・か・っ・た・ね)

 

和は、少しだけ泣きそうな、

でも安心しきった笑顔で小さく頷くと、

ドアの向こうへと消えていった。

 

パタン、と閉まったドアの音が、

咲月の世界の終わりの合図だった。

 

 一人、その場に取り残された瞬間、

張り詰めていた全ての糸が切れ、

視界が急速に滲んでいく。

 

堪えていた涙が、堰を切ったように頬を伝い、

次から次へと溢れ出した。

 

よかったね、なんて。

 

心が張り裂けそうなのに。

 

自分の恋が、今、目の前で完全に終わったのに。

 

胸が痛い。息ができない。

 

咲月はもう、そこに立っていることさえできず、

よろめく足で駅へと引き返した。

 

幸せそうな二人の残像と、

自分の愚かな期待が頭の中をぐちゃぐちゃに

かき混ぜる。

 

止まらない涙で前が見えないまま、

ただ、この胸の痛みから逃げるように、

歩き続けた。

 

胸が張り裂けそうになった、

あの土曜日から二日が過ぎた。