じゃあねが「切ない」⑥ | じゅりれなよ永遠に

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じゅりれな・坂道小説書いてます。

その日は、講義が終わっても

和はどこか上の空だった。

 

二人で駅へ向かう道すがら、

いつもより口数が少なく、時折遠い目をする。

 

咲月が「どうしたの?」と声をかけても、

「ううん、なんでもない」と

力なく笑うだけだった。

 

その夜、咲月の部屋のインターホンが鳴った。

 

ドアを開けると、そこに立っていたのは、

今にも泣き出しそうな顔をした和だった。

 

「和…?」

 

部屋に入るなり、

和は堰を切ったように泣き崩れた。

 

咲月は驚きながらも、

その背中を優しくさする。

 

しゃくりあげる嗚咽の合間から、

途切れ途切れに言葉が紡がれた。

 

「見たんだ…さくらさんが…

知らない女の人と、歩いてるの…」

 

「え…?」

 

「すごく、楽しそうに笑ってた…。

私が知らない顔で…。腕を組んでて、

すごく、すごく親しそうだった…」

 

先日、自分が見た光景がフラッシュバックする。

 

あの完璧に見えた二人の世界。

 

それが、今、和の言葉によって

崩れ去ろうとしていた。

 

「勇気をだして、聞くしかないよ。

きっと、何か誤解があるのかもしれないし」

 

 咲月は、親友として言うべき言葉を口にした。

 

しかし、和はさらに強く首を横に振る。

 

「こわいよ…もし、本当だったらどうしよう。

別れようって言われたら…私、どうしたら…」

 

子どものように泣きじゃくる和の姿に、

咲月の胸は締め付けられる。

 

咲月は覚悟を決めて、和の肩をそっと掴んだ。

 

 「じゃあ、明日の土曜日、

遠藤さんの家の前まで私がついていくから。

ちゃんと呼び出して、聞いたほうがいいよ。

一人じゃ無理なら、私も一緒に行くから」

 

その言葉に、

和は涙に濡れた瞳で咲月を見上げた。

 

 「…うん。わかった。

そうする。ありがとう、さっちゃん…」

 

 ようやく、和は小さく頷き、

決心したように顔を上げた。

 

その夜、和が自分の家に帰った後、

咲月は一人

、部屋の静寂の中で深く息をついた。

 

 泣き疲れて少しスッキリした顔で帰っていった

和の背中を思い出す。

 

親友として、正しいことができたはずだ。

 

なのに、心の奥底で、

黒い感情が鎌首を

もたげるのを止められなかった。

 

(もし、和がさくらさんと、

別れることになったら…?)

 

その思考が一度浮かぶと、もう止まらない。

 

(そしたら、和の隣は、

私が…。泣いている和を慰めるのは、私…)

 

そんな淡い、

甘い期待を抱いてしまった自分に、

咲月はハッとして血の気が引いた。

 

親友の不幸を、

心のどこかで願ってしまっている。

 

和の涙を利用して、

自分の恋を叶えようとしている。

 

「……最低だ、私」

 

呟いた声は、

誰に聞かれるでもなく

部屋の空気に溶けて消えた。

 

咲月は両手で顔を覆い

、じわりと滲む涙の熱さと、

どうしようもない自己嫌悪に

唇を噛みしめるしかなかった。

 

明日、和の隣で、

自分はどんな顔を

していればいいのだろうか。

 

答えの見えないまま、

重く苦しい夜が更けていった。