じゃあねが「切ない」④ | じゅりれなよ永遠に

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じゅりれな・坂道小説書いてます。

それから一週間が経った夜の8時。

 

咲月が

自室で課題のレポートに取り組んでいると、

不意にインターホンが鳴った。

 

画面に映し出されたのは、

少し俯き加減の和の姿だった。

 

こんな時間にどうしたのだろう。

 

咲月の心臓が、とくん、と音を立てる。

 

「和?どうしたの?」

 

急いでドアを開けると、

そこに立っていた和は、いつもとは違う、

深刻な顔をしていた。

 

咲月はドキドキしながらも、

彼女を部屋へと招き入れた。

 

「ごめんね、急に…」

 

「ううん、大丈夫だよ。何かあった?」

 

ベッドの縁に腰掛けた和は、

しばらく唇を噛んでいたが、

やがて意を決したように口を開いた。

 

「さくらさんの様子が、なんだか変なんだ…」

 

その言葉に、

咲月の心臓が今度は嫌な音を立てて軋んだ。

 

また、さくらさんの話。

 

でも、今日の和は明らかにいつもと違う。

 

「変って…どういうこと?」

 

「なんて言うか…妙によそよそしい気がして。

LINEの返事も遅いし、…」

 

俯く和の肩は、小さく震えているように見えた。

 

咲月は、

胸が張り裂けそうな思いを必死で押し殺し

努めて明るい声を作った。

 

「気のせいだよ、きっと。さくらさんだって、

忙しい時もあるんだよ」

 

そう励ます声が、

自分でも驚くほど穏やかに響いたことに、

咲月は少しだけ安堵した。

 

「そうかな…」

 

「そうだよ。考えすぎだって」

 

和は少しだけ顔を上げたが、

その瞳は不安に揺れていた。

 

「でも…もし何か理由があったらって思うと、

それを聞くのがこわいんだ」

 

その弱々しい声を聞いた瞬間、

咲月の胸にどうしようもないほどの

愛おしさが込み上げてきた。

 

目の前で不安に震える、

このかけがえのない存在を、

今すぐこの腕で強く抱きしめて、

守ってあげたい。

 

そんな衝動に駆られ、

思わず手を伸ばしかけて、

すんでのところで握りしめた。

 

「大丈夫。きっと何でもないよ。

和が不安に思ってるってこと、

さくらさんもわかってないだけだよ」

 

咲月は、自分の心を隠すように、

できる限りの優しい言葉を紡いだ。

 

その言葉が届いたのか、

和の表情が少しずつ和らいでいく。

 

「…うん。そっか。そうだよね」

 

やがて和は、

「ありがとう、さっちゃん。

話聞いてもらったら、少し元気出た」

と言って、はにかむように笑った。

 

その笑顔に、咲月の胸はまたチクリと痛む。

 

「よかった」

 

笑顔で和を玄関まで見送る。

 

「じゃあね、おやすみ」

 

「うん、おやすみ」

 

ドアが閉まり、一人になった瞬間、

咲月は壁に背を預けて

ずるずるとその場に座り込んだ。

 

和の笑顔を思い出して嬉しいのに、

涙がこぼれそうになる。

 

結局、自分は和を励ますことしかできない。

 

一番好きな人の心を、

他の誰かのために

繋ぎ止める手伝いをしている。

 

その矛盾が、夜の静けさの中、

どうしようもなく咲月を切なくさせた。