じゃあねが「切ない」② | じゅりれなよ永遠に

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じゅりれな・坂道小説書いてます。

夜の7時を少し過ぎた頃、

咲月は夕食を終え、

自室のベッドに仰向けに寝転がっていた。

 

大学の課題のプリントが数枚、

畳んだ毛布の上に無造作に置かれている。

 

スマートフォンを弄るでもなく、

天井を見つめたまま、

今日の和との短い会話を思い出していた。

 

(「カフェ、楽しかったんだ……」)

 

和の嬉しそうな顔が、

まぶたの裏に焼き付いて離れない。

 

高校時代からずっと一緒だった和。

 

いつも隣にいて、

何を話しても最初に笑ってくれた和。

 

そんな和の隣に、今は別の誰かがいる。

 

その事実が、咲月の胸を締め付けた。

 

ふと、窓の外に気配を感じて顔を上げた。

 

通りに面した窓から下を見ると、

見慣れたシルエットが歩いてくるのが見えた。和だ。

 

咲月の家と和の家は隣同士で、

歩いてほんの1分もかからない距離にある。

 

咲月は窓を開け、

少し身を乗り出して声をかけた。「和!」

 

和は突然の声に驚いたように顔を上げた。

 

咲月の姿を認めると、ぱっと笑顔になった。

 

「さっちゃんだ!こんばんはー」

 

いつもの明るい声。

それが、今の咲月には少しだけ悲しく響いた。

 

「おかえり。さくらさんとのデート、

どうだった?」

 

平静を装って尋ねたつもりだったけれど、

自分の声が少しだけ震えていることに気づいた。

 

和は満面の笑みで答えた。

 

「うん、楽しかったよ!

今日は喫茶店でお茶を飲んだだけなんだけどね」

 

咲月は、その眩しい笑顔をまっすぐ見ることができなかった。

 

「へえ……そうなんだ」

 

精一杯、当たり障りのない返事を返すのがやっとだった。

 

「でもね、さっちゃん!

今週の土曜日に、さくらさんと映画に行くことになったんだ!」

 

和はそう言って、

両手を小さく握りしめて、本当に嬉しそうに笑った。

 

その笑顔は、咲月の心に突き刺さる刃のようだった。

 

和の喜びを隣で喜べない自分が、ひどく惨めに思えた。

 

「……そっか。よかったね」

 

絞り出すような声で、

咲月はそう答えるのが精一杯だった。

 

喉の奥が何かで詰まったように苦しい。

 

笑顔を作ろうとしたけれど、

上手くできたかわからない。

 

和はまだ下から笑顔で手を振っている。

 

「うん!また明日、大学でね!」

 

「……うん、また明日」

 

咲月は小さく手を振り返した。

 

和の姿が、玄関のドアの向こうに消える。

 

咲月は静かに窓を閉めた。

 

部屋の中には、夜の静けさが重く立ち込めている。

 

ベッドに再び横たわると、

心臓がドキドキと早鐘を打つ

 

好きな人の幸せを隣で祝福できないなんて、

こんなに辛いものなのだと、

咲月は今日改めて思い知った。

 

夜の闇の中で、咲月の瞳から一筋の涙がこぼれた。

 

それは、誰にも見られることのない、秘密の涙だった。