夜の街を歩きながら、
スマートフォンを取り出し、
「間島孝之 ユーチューバー」と入力する。
すぐにいくつかの動画チャンネルがヒットした。
再生数の少ない、素人然とした動画が並んでいる。
その中の一つの動画の背景に
映り込んだ窓の外の景色、
そして別の動画に映り込んだ
特徴的なアパートの壁。
それらを頼りに、
友梨奈は頭の中で地図を組み立てていく。
薬工場での作業で培われた集中力と、
裏社会で生きるために磨かれた洞察力が、
瞬く間に間島孝之の居場所を特定していく。
間もなく、友梨奈のスマートフォンに、
あるアパートの住所が表示された。
都心からは少し離れた、
古びたアパートだった。
(見つけた…)
友梨奈はタクシーを拾い、
その住所を告げた。
車の窓から流れる夜景を眺めながら、
これから起こるであろう出来事に、
静かに備えていた。
タクシーを降りた友梨奈は、
古びた木造アパートの前に立っていた。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、
湿った夜気が肌にまとわりつく。
二階の一室、
間島孝之の部屋と思われる窓は
真っ暗だった
階段を軋ませないよう静かに上り、
目的の部屋のドアの前に立つ。
インターホンを鳴らしたが、応答はない。
しかし、ドアの向こう側から、
息を殺したような
微かな物音が聞こえてくる。
中にいるのは間違いない。
友梨奈は躊躇なく、
懐から取り出した細身の
サバイバルナイフの先端を、
鍵穴に差し込んだ。
金属同士が擦れる微かな音を
数回響かせただけで、
あっけなく錠が開く。
熟練した手つきだった。
音もなくドアを開けると、
カビ臭さと埃っぽさが混じった空気が
むわりと鼻をついた。
六畳ほどの狭い部屋の中央には、
ひっくり返った
インスタント食品の容器や
脱ぎ散らかされた衣類が散乱している。
その奥、部屋の隅で
肩を寄せ合うようにして、
若い男女がこちらを
怯えた目で見上げていた。
女の方が、
写真で見た一ノ瀬美空だろう。
男は痩せていて、
神経質そうに震えている。
間島孝之に違いない。
友梨奈が
部屋に一歩足を踏み入れると、
美空が甲高い悲鳴を上げた。
「ひっ…!ご、ごめんなさい!
盗んだ宝石は全部返しますから!
だから、命だけは…命だけは
見逃してください!」
金切り声で懇願する美空の隣で、
間島も青ざめた顔でガタガタと震え、
必死に頷いている。
友梨奈は無表情のまま、
ゆっくりと首を横に振った。
「…意味がわかんないんだけど」
低い、感情の抑えられた声。
「え…?」
美空は虚を突かれたように友梨奈を見た。
「あ、あんた…
あいつらの仲間じゃないの?
な、なによ、脅かさないでよ!」
途端に強気になった美空が悪態をつく。
その変わり身の早さに、
友梨奈は内心で舌打ちした。