Harmony Blossoms 6 | じゅりれなよ永遠に

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じゅりれな・坂道小説書いてます。

季節は巡り、

爽やかな風が吹く5月のある朝だった。

 

 いつものように、和と咲月が

二人で並んで登校しているときだった。

 

前方から、すらりと背の高い男子生徒が、

にやにやしながら近づいてきた。

 

「へえ、君たちが

噂の【Harmony Blossoms】か。

噂以上に美人姉妹じゃん」

 

 馴れ馴れしい口調で、

値踏みするような視線を二人に向ける。

 

 「……なんですか?あなたは?」

 

咲月は一瞬で警戒を強め、

無意識に和の半歩前に立ちながら

問いかけた。

 

 「え、俺のこと知らないの?

この学校で野村周平を知らないとか、

マジ?」

 

彼は心底驚いたように、

しかしどこか得意げに言った。

 

野村周平。サッカー部の3年生で

、絶対的エース。

 

甘いマスクと、

少し強引な性格が逆に魅力だとされ、

学校一のモテ男として有名だった。

 

「私たちに、なにか用ですか?」

 

 咲月は動じずに、もう一度尋ねた。

 

「君じゃなくてさ、

そっちの……井上さん、だっけ?

君に用があるんだよ」

 

野村の視線は、

咲月の背後にいる和に向けられている。

 

咲月は野村を睨みつけた。

 

「そうですか。でも、こっちもあなたには

何の用もありませんので。失礼します」

 

冷たく言い放ち、和の手を引いて

野村の横を通り過ぎようとした、

 

その時だった。 野村が素早く手を伸ばし、

和の腕を掴んだ。

 

これから起こる一騒動の、

それはプロローグだった。

 

「ねえ、井上さん」

 

掴んだ腕は離さずに、

野村は自信に満ちた笑みを浮かべて言った。

 

 「俺と付き合わない?

俺たち、結構お似合いだと思うんだけど」

 

そのあまりにも一方的で傲慢な物言いに、

和は眉をひそめた。

 

「やめてください……!」

 

強い力で腕を振りほどく。

 

「私、そういう気は、ありませんから……!」

 

きっぱりとした拒絶。

 

しかし野村は、まるで堪えていない様子だ。

 

すかさず、

咲月が野村の前に立ちはだかった。

 

「はっ。あんたさ、自分が思ってるほど

カッコよくないって、気づいてる?

その自信、どこから来るわけ?」

 

 鼻で笑いながら、痛烈な言葉を浴びせる。

 

「……なんだと……」

 

 野村の表情から笑みが消え、

険しいものに変わる。

 

人気者の自分が、ましてや女子生徒から、

これほど侮辱されたことはなかったのだろう。

 

 二人の間に、バチバチと火花が散るような、

一触即発の空気が流れた。

 

そこに、間延びした声が割り込んだ。

 

「おーはよう! ……って、

おや? どうしたんだい、朝から」

 

後ろからやってきたのは、担任の稲垣だった。

 

その姿を認めると、野村は小さく舌打ちした。

 

「……チッ。まあいいや。俺、諦め悪いから。

覚えといてよ、井上さん」

 

和に捨て台詞を残し、

野村は先に歩いて行ってしまった。

 

「稲垣先生!ありがとうございます、

助かりました!」

 

 咲月はほっとしたように稲垣にお礼を言った。

 

「ん?? 何かあったのかい?

 さっきのは、サッカー部の野村じゃないか」

 

 「そうなんです。さっきの野村先輩が、

和にしつこく絡んできたんです」

 

「ああ、野村か。

まあ、あいつは女子にモテるからなあ……」

 

 稲垣は自分のトレードマークである

メガネのズレを、

人差し指でくいと直しながら尋ねる。

 

「で、井上の方はどうなんだ?」

 

「どうって…?」

 

咲月が聞き返す。

 

「付き合う気、ないのか?

彼氏にすれば、

他の男子も寄り付かなくなるかも

しれないぞ?」

 

おどけたように言う稲垣に、

咲月が間髪入れずに答えた。

 

「あるわけないじゃないですか!

あんなのが和のタイプなわけないでしょ!」

 

 まるで自分のことのように、断言する。

 

 「そうなの?」

 

稲垣が和に視線を向けると、

和は小さく頷いた。

 

「……苦手、です。

ああいう、自信過剰な人は……」

 

その控えめながらも、

はっきりとした拒絶の意思に、

稲垣は「なるほどね」とだけ呟いた。

 

この野村周平の出現が、

後に【Harmony Blossoms】と

呼ばれる二人を巻き込む、

大きな事件の引き金となることを、

この時の和と咲月はまだ知る由もなかった。