黒い羊ー夕暮れの影ー24 | じゅりれなよ永遠に

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じゅりれな・坂道小説書いてます。

玲奈は友梨奈を真っ直ぐに見つめ、

感情を抑えるように、言葉を紡ぎ始めた。

 

「あなたは、任務のためとはいえ、

和さんの心を弄んだ。純粋な気持ちを利用し、

深く傷つけた。恋人だと偽り、信頼を得て、

そして、用済みになったら、あっさりと切り捨てる。

人間として、最低の行為よ」

 

玲奈の言葉は、容赦なかった。

今まで抑えていた怒りと苦痛が、

言葉となって溢れ出す。

 

友梨奈は、一言も反論せず、

ただ、静かに玲奈の言葉を聞いていた。

 

「和さんは、今、深く傷つき、苦しんでいる。

あなたの裏切りは、彼女の脆弱な心に、

消えない傷跡を残した。あなたは、

それを理解しているんですか?想像できるんですか?」

 

玲奈の声は、少しずつ震え始めた。

 

怒りだけでなく、和への痛切な感情が、

玲奈の胸を締め付ける。

 

友梨奈が和に与えた傷は、あまりにも深い。

 

友梨奈は、静かに顔を上げ、玲奈の瞳を見つめた。

 

その瞳には、以前の冷酷さに加え、

何か重い色が宿っていた。

 

「…理解しています」

 

友梨奈の声は、かすれて、小さかった。

それは、まるで後悔の言葉のようにも聞こえた。

 

「私がしたことは、

決して許されることではありません。

和ちゃんを深く傷つけてしまったこと、

心から申し訳なく思っています」

 

友梨奈は、頭を下げ、

以前の凛とした姿からは想像できないほど、

脆弱な姿を晒した。

 

玲奈は、そんな友梨奈の予想外な態度に、

ますます混乱した。

 

これは、一体、何なのだろうか。

 

友梨奈は、本当に後悔しているのだろうか。

 

それとも、これもまた、何か巧妙な罠なのだろうか。

 

玲奈の心は、依然として疑念と不安に満ちていた。

 

しかし、友梨奈の言葉の奥に、

何か真実味のようなものを感じざるを得なかった。

 

それは玲奈がこれまで見てきた、

冷酷で隙のない友梨奈とは異なる、

人間的な一面だった。

 

しかし、それが真実だとしても、

和が受けた傷が癒えるわけではない。

 

玲奈の怒りと疑念は、

依然として心の中で渦巻いていた。

 

「…もし、本当に申し訳ないと思っているなら、

和さんの前から、完全に消えてちょうだい」

 

玲奈は、冷たく言い放った。

 

それが、今の玲奈にできる、

精一杯の罰だった。

 

「…玲奈さんの望みは、それだけですか?」

 

友梨奈は、顔を上げずに尋ねた。

その声は、少し掠れていた。

 

「…それだけよ。あなたが和さんのためにできることは、

もう何もない。むしろ、あなたの存在こそが、

彼女を苦しめる原因になる」

 

玲奈は、冷徹に言い切った。

 

友梨奈の存在は、和にとって、甘くも残酷な罠だ。

 

その罠から、和を解放してやることこそが、

玲奈の使命だと感じていた。

 

「…わかりました」

 

友梨奈は、静かに頷いた。

 

そして、顔を上げ、玲奈を見つめた。

 

その瞳は、以前の冷酷さを取り戻し、

何か決意に満ちていた。

 

「私は、和ちゃんの前から姿を消します。

二度と、彼女に近づくことはありません。」

 

友梨奈の言葉は、力強く、そして断固としていた。

 

それは、まるで誓いの言葉のようにも聞こえた。

 

「信じるわ。」

 

玲奈は、確信がないまま、

そう答えた。友梨奈の言葉を信じたい気持ちと、

また騙されるのではないかという不安が、

心の中でせめぎ合う。

 

しかし、今は、友梨奈の言葉を信じるしかない。

 

そして、和を守ることに、全力を尽くすだけだ。

 

友梨奈は、少し微笑んだようにも見えた。

 

しかし、それは以前の氷のような微笑ではなく、

もっと脆弱で、メランコリックな微笑だった。

 

「…玲奈さん、ありがとうございました」

 

友梨奈は、突然、感謝の言葉を口にした。

 

玲奈は、戸惑いで眉をひそめた。

なぜ、今、感謝の言葉を?

 

「何故あなたが?」

 

玲奈が尋ねると、友梨奈は、小さく首を横に振った。

 

「…いいえ、何でもありません。

ただ、玲奈さんに、出会えてよかったと、

そう思っただけです」

 

友梨奈は、そう言うと、再び頭を下げ、

深々と頭を下げた。

 

そして、以前の冷たい微笑を浮かべ、

玲奈に背を向け、

警視庁の廊下を歩き去っていった。

 

玲奈は、友梨奈の背中を、しばらくの間、

ただぼんやりと見つめていた。

 

友梨奈の最後の言葉、そして予想外な態度。

 

それは、玲奈の心に、

言いようのない波紋を広げていった。

 

友梨奈は、一体、何だったのだろうか。

 

冷酷な任務遂行者、それとも、

深奥に脆弱性を抱えた人間…。

 

玲奈には、最後まで、

友梨奈という人間を理解することができなかった。

 

しかし、一つだけ確かなことがある。

 

それは、友梨奈が和の前から姿を消すと約束したことだ。

 

玲奈は、その約束を信じ、そして、和を守り抜くことを、

改めて心に誓った。

 

廊下には、依然として冷たい風が吹き抜け、

玲奈のコートの裾を揺らしていた。

 

夜は、まだ終わらない。

 

しかし、玲奈の心には、わずかながらも、

新しい希望の光が差し込み始めていた。