じゅりれなよ永遠に

じゅりれなよ永遠に

じゅりれな・坂道小説書いてます。

数日後、友梨奈は都心から少し離れた、

路地裏にひっそりと佇む

喫茶「L」の扉を開けた。

 

木の温もりを感じる店内には、

クラシック音楽が静かに流れ、

壁一面の本棚には古書が並んでいる。

 

ここは、友梨奈の恩人であり、

同じ道を歩んだ先輩でもある

松井玲奈が経営する店だった。

 

カウンターの奥で、玲奈は

柔らかな微笑みを浮かべて

文庫本を読んでいた。

 

その姿は、

裏社会の厳しさを微塵も感じさせない、

穏やかなものだった。

 

友梨奈の気配に気づくと、

彼女は本を閉じ、

静かに友梨奈を迎えた。

 

 「いらっしゃい、友梨奈。久しぶりね」

 

「…ご無沙汰してます」

 

友梨奈は

玲奈の向かいの席に腰を下ろした。

 

玲奈は何も言わず、手慣れた様子で

コーヒーを淹れ始める。

 

芳醇な香りが、

友梨奈の強張った心を

少しだけ解きほぐしていくようだった。

 

しばらくの沈黙の後、

友梨奈はぽつりぽつりと、

彩のことを話し始めた。

 

出会い、純粋な想い、

そして、守れなかった命のこと。

 

言葉を選びながらも、

その声には隠しきれない後悔と

無力感が滲んでいた。

 

 「…私は、あの子を助けられませんでした。

結局、何も…」

 

 俯いた友梨奈の肩が、小さく震えている。

 

玲奈は、

静かに友梨奈の話に耳を傾けていた。

 

そして、淹れたてのコーヒーを

友梨奈の前にそっと置くと、

穏やかな、しかし芯の通った声で言った。

 

 「そっか…辛かったわね」

 

その一言は、

友梨奈の心の奥深くに染み渡るようだった。

 

「でもね、友梨奈。私たちは神様じゃない。

全ての人を救うことなんてできないわ。

それでも…それでも、

目の前で苦しんでいる人がいたら、

手を差し伸べる。

たとえそれが無力だとわかっていても、

助けていくしかないんだよ。

一つでも多くの命を、絶望から」

 

玲奈の言葉は、かつて友梨奈に告げた

 

「あなたは一人でも多くの人間を救いなさい」

という言葉と重なり合う。

 

それは、理想論かもしれない。

 

しかし、玲奈自身が

そうやって生きてきたことを、

友梨奈は知っていた。

 

友梨奈は、

目の前のコーヒーカップを見つめたまま、

動けなかった。

 

玲奈の言葉は、優しさであり、

同時にあまりにも重い十字架のようにも

感じられた。

 

「…厳しいな…玲奈さんは…」

 

 ようやく絞り出した友梨奈の言葉には、

かすかな苦笑と、

そして恩人への深い敬意が込められていた。

 

玲奈は、ただ静かに微笑み返す。

 

窓から差し込む午後の柔らかな光が、

二人を包み込んでいた。

 

友梨奈の戦いは、まだ終わらない。

 

そして、玲奈の言葉を胸に、

彼女はこれからもこの非情な都会の片隅で、

見えない刃を振るい続けるのだろう。

 

救える命もあれば、救えない命もある。

 

その狭間で揺れ動きながらも、

彼女は進んでいくしかないのだから。

 

喫茶「L」の静かな時間が、ゆっくりと流れていった。