シシルはその宝石を手のひらに乗せ、そっと息を吹きかけた。
宝石は微かに青く輝くと、氷が割れるような繊細な音を立てて砕けた。

天窓から射す光の中で、銀の指輪が見えた。
指輪は宙に浮かびゆっくりと回転していたが、やがてシシルの手のひらの上に落ちた。

「この指輪には、お前の主の思念が残っている。それが、いつどのような形で現れるかは分からない。発動させる鍵も分からぬ。ただ、千年後ここに訪れる者に渡せと言い伝えがあった。」

「ただの伝説だとは思わなかったのか?」

「伝説か真実かは問題ではない。我が一族にとって大切なことは、ただ…。」

シシルが指輪を手に取りアレスに差し出した。

「約束を果たすと言うこと。」

アレスが再び人の姿を取り戻し、その手に指輪を受け取った。

「そうであった。私も陛下との約束があった。民を守れと…。」

アレスは見覚えのあるその指輪に目を細めた。

「ああ。懐かしいことだ。陛下がよくお使いだった指輪だ。間違いない。」

「運命を握る少女に渡すが良い。」

「何故それを知っている?その先にある未来はお前には見えるのか?」

シシルが首を振った。

「…我々に出来ることは今を知り、今を作る事だけ。それが、突き詰めれば、過去を作り、未来を作ることになる。全ては今この瞬間をどう生きるかだよ。ただ正しいと思う方へ進むしかないのさ。」