「ねぇ、アレス。もう一度乗せて頂戴。秘密にするから。
本当よ、誰にも言わない。」

薔薇の花園の陰から、小さなささやき声が聞こえる。
アレスは、鼻息荒く首を振って見せた。

「分かった!満月の夜ね。それならいいのでしょう?」

のんびりとしっぽを振りながらアレスは黙っている。

「ラティア!…ラティア!」

「あ、いけない、お父様だわ。」

ラティアは慌てて、茂みの隙間に隠れようとしたが、
アレスの姿を目にした父には既にその場所が分かっていた。

「ラティア、隠れていないで出てきなさい。
王女ともあろうものが、隠れるなどということをしてはならん。」

「はい。お父様。」

ラティアが観念して立ち上がると。
アレスが鼻をすり寄せた。

「また此処に居たのだな。
いつまでも物語に夢中になって、
現実と伝説の区別もつかぬようになっては困る。」

「お父様、伝説は物語ではありま…。」

「ユリウス!」

王が、一声高く呼ぶと、
背後の少し離れた場所でユリウスが答えた。

「聞き分けの無いこの子を、
今すぐ部屋に連れて行きなさい。」

ユリウスがラティアに近づくと、
ラティアはユリウスの耳元にささやいた。
『聞き分けの無いのはお父様だわ。』

「ラティア!」

その言葉を聞き取った王は、
すこぶる不機嫌な様子で制した。

アレスがちょっと驚いた様子で、
足踏みをして見せた。




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