光を放っていた魔法陣が消えていく。
サウザードは、傍らの椅子に身を預けた。
一段と激しい雨が窓を叩き始め、
遠く近くドラゴンの吠吼が聞こえる。
額から冷たい汗が流れ落ちた、全身に絡みつく深い疲労が、
この部屋と自分を闇の中に塗り込めようとしている。
消えていた燭台の蝋燭が、
小さな音を立てて再び燃え上がった。
「ユリウスか?」
目を閉じたまま、サウザードが問うと、
開け放たれた部屋の入り口で、
ユリウスが躊躇いがちに答えた。
「陛下…。」
「先程の少女を見たか?」
「はい。一体何をなさっていたのです?」
「未来を見ていた。この戦いの鍵を握る未来を…。」
そう言ってサウザードは目を開けた。
「ユリウス。…未来と言うものは、
今のこの一瞬が因となり刻々と紡がれてゆく。
今下す決断や行動、何を見、何を考え、何を聞いたか、
それらの一つ一つが巡り巡って、
様々な連鎖を起こし未来を形作る。
どんなささいなことでも、だ。
私はそれらを辿り、未来をみつけた。
未来を知る必要があったのだ。」
「あの少女が未来と…?恐ろしいほどの魔力の流動がありました。
そこまでなさって、今、この時に、何故あの少女をお探しに?」
「あれは…」
サウザードは苦笑しながらユリウスを見ると、
机の上に肘をのせ手を組んだ。
「私なのだ。」
雨が止み、数頭のドラゴンが窓外を悠々と舞っているのが見える。
「アレスめ。大した奴だ、もう帰還したか。」
窓外の様子に一瞬顔を向けると、
サウザードは満足そうに呟いた。
「どうやら、私が今考えていることは、
間違いないようだ。この戦いに、我々は勝利する。
しかし、そこで戦いは終わらない。
1000年後、再び大戦が起きる。
よく覚えておけ、ユリウス。
お前にとっては1000年も長くはあるまい。
あの少女を探しだし、その運命を見届けよ。」
ユリウスは紡ぐべき言葉を探すという風に、
一瞬あたりに視線を泳がせた。
「あ…。陛下…それは一体どう言うことなのです?
あの少女に世界を救う力があるとは思えません…。
陛下の来世とおっしゃいますか?
力も記憶もおそらく無いでしょう。
普通の少女となんら変わらない彼女に一体何が出来ると?」
サウザードは大きく息をつき、
椅子の背に身を沈めた。
「確かに、そのとおりだ。未知数ではある。
だが、策はいくつかあるから、出来る限りの手は打っておこう。
所詮、私のこの命の方向性と言うものは変わらないのだ。
だから、私がどう判断し、どう行動するかというのは、よくわかる。
ただ、魔力に関しては予測がつかない。
あまり、期待出来そうにはないな。」
そこまで言うと、サウザードは軽く笑った。
「あの少女を見た、私の気持ちも察してくれ。
今のお前以上に落胆したよ。」
そこへ、彼方から水に濡れた足音が近づいてきた。
「アレスか」
サウザードの呼びかけに、
アレスが部屋の入り口で膝をつき答えた。
「只今、戻りました。」
雨でしとどに濡れたアレスは
今は人の姿を取っていた。
夜明け前の空の様な瞳に灯火を移して、
戦いの後の気息に壮絶な美しさを見せている。
黒髪から、滴がしたたり落ちる。
サウザードが立ち上がりアレスの傍らに近づいた。
「見事だったな。私の出る幕は無かったようだ。」
「いえ、おそらくこちらの出方を見るための挑発でしょう。
もしくは、囮かと。あまりに手応えのない戦いでした。
油断できません。」
「そうだな。地底からの攻撃もありうる。
本隊はすでに体勢を整えつつある。
ついに、全力を投じる時が来た。
もどかしい限りだ。人生と言うものは。
だが、過ぎてみれば儚く、尊い。
お前達の目にはどう映っているのだろうな。
刹那の人生を生きている、我々人間は。」
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サウザードは、傍らの椅子に身を預けた。
一段と激しい雨が窓を叩き始め、
遠く近くドラゴンの吠吼が聞こえる。
額から冷たい汗が流れ落ちた、全身に絡みつく深い疲労が、
この部屋と自分を闇の中に塗り込めようとしている。
消えていた燭台の蝋燭が、
小さな音を立てて再び燃え上がった。
「ユリウスか?」
目を閉じたまま、サウザードが問うと、
開け放たれた部屋の入り口で、
ユリウスが躊躇いがちに答えた。
「陛下…。」
「先程の少女を見たか?」
「はい。一体何をなさっていたのです?」
「未来を見ていた。この戦いの鍵を握る未来を…。」
そう言ってサウザードは目を開けた。
「ユリウス。…未来と言うものは、
今のこの一瞬が因となり刻々と紡がれてゆく。
今下す決断や行動、何を見、何を考え、何を聞いたか、
それらの一つ一つが巡り巡って、
様々な連鎖を起こし未来を形作る。
どんなささいなことでも、だ。
私はそれらを辿り、未来をみつけた。
未来を知る必要があったのだ。」
「あの少女が未来と…?恐ろしいほどの魔力の流動がありました。
そこまでなさって、今、この時に、何故あの少女をお探しに?」
「あれは…」
サウザードは苦笑しながらユリウスを見ると、
机の上に肘をのせ手を組んだ。
「私なのだ。」
雨が止み、数頭のドラゴンが窓外を悠々と舞っているのが見える。
「アレスめ。大した奴だ、もう帰還したか。」
窓外の様子に一瞬顔を向けると、
サウザードは満足そうに呟いた。
「どうやら、私が今考えていることは、
間違いないようだ。この戦いに、我々は勝利する。
しかし、そこで戦いは終わらない。
1000年後、再び大戦が起きる。
よく覚えておけ、ユリウス。
お前にとっては1000年も長くはあるまい。
あの少女を探しだし、その運命を見届けよ。」
ユリウスは紡ぐべき言葉を探すという風に、
一瞬あたりに視線を泳がせた。
「あ…。陛下…それは一体どう言うことなのです?
あの少女に世界を救う力があるとは思えません…。
陛下の来世とおっしゃいますか?
力も記憶もおそらく無いでしょう。
普通の少女となんら変わらない彼女に一体何が出来ると?」
サウザードは大きく息をつき、
椅子の背に身を沈めた。
「確かに、そのとおりだ。未知数ではある。
だが、策はいくつかあるから、出来る限りの手は打っておこう。
所詮、私のこの命の方向性と言うものは変わらないのだ。
だから、私がどう判断し、どう行動するかというのは、よくわかる。
ただ、魔力に関しては予測がつかない。
あまり、期待出来そうにはないな。」
そこまで言うと、サウザードは軽く笑った。
「あの少女を見た、私の気持ちも察してくれ。
今のお前以上に落胆したよ。」
そこへ、彼方から水に濡れた足音が近づいてきた。
「アレスか」
サウザードの呼びかけに、
アレスが部屋の入り口で膝をつき答えた。
「只今、戻りました。」
雨でしとどに濡れたアレスは
今は人の姿を取っていた。
夜明け前の空の様な瞳に灯火を移して、
戦いの後の気息に壮絶な美しさを見せている。
黒髪から、滴がしたたり落ちる。
サウザードが立ち上がりアレスの傍らに近づいた。
「見事だったな。私の出る幕は無かったようだ。」
「いえ、おそらくこちらの出方を見るための挑発でしょう。
もしくは、囮かと。あまりに手応えのない戦いでした。
油断できません。」
「そうだな。地底からの攻撃もありうる。
本隊はすでに体勢を整えつつある。
ついに、全力を投じる時が来た。
もどかしい限りだ。人生と言うものは。
だが、過ぎてみれば儚く、尊い。
お前達の目にはどう映っているのだろうな。
刹那の人生を生きている、我々人間は。」
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