ああ。私も見てみたいわ。
時を辿って行けば見えるかもしれないでしょう?

はっとしたようにユリウスは、
傍らで自分を見つめているラティアを、
見つめ返した。

ねぇ…。
心には翼があって、時間も空間も関係ない。
こうして目を閉じれば…、ね…。

ラティアの言葉が途切れ、
彼女が眠りに入ったのが見て取れた。

ユリウスは、じっとラティアの寝顔を
見つめていた。

ゆっくりと周囲の大気が動いている。
ユリウスは次第に事の重大さに気づき始めた。


まさか…。

小さな閃光がいくつも弾けた。
彼女は確かに時を遡っている。

毛布が浮かび上がって、ベッドの下に滑り落ちた。

いけない。このままでは…。

ユリウスが呼びかける。

ラティア!

…シェル…リヴィ…ラ…ブール

ラティアの口から漏れた呪文は
刹那に激しい炎を呼び起こし、
ラティアの周囲に渦巻いた。

とっさに身を引いたユリウスは、
ハイエルフ本来の姿に戻っていた。

なんということだ!

炎が部屋を舐める。

ルシル…アリュフィルム…リュ…

ラティアの口から、
続けて不明瞭な言葉が紡ぎ出された。


リシュナ!


ユリウスの一声に答えて、
水の精霊が現れた。

床から水が流れ出し、
うねりながら広がり、
壁面を伝って天井まで覆い尽くすと、
全ての炎を消し去った。

ラティア!ラティア!

黒く焼け焦げたベッドの上で、
白い衣のラティアは、
何事も無かったかのように目覚めた。

ユリウス?

ぼんやりとユリウスを見上げて、
ラティアが首を傾げた。

ユリウスは一つため息をつくと、
膝をつき、ラティアの顔をのぞき込んだ。

何か見えましたか?

ラティアは首を振った。

だめなの。光の壁が邪魔をして、
中に入れないの。

誰かがいるのは分かる。
でも、よく見えない。
何か思い出せそうなんだけど、
出てこないの。
時々聞こえてくる言葉を
繰り返したら、
あなたの声が聞こえたわ。

ええ。呼びました。
その言葉は口にしてはいけません。
戦いの言葉なのです。
まだ、あなたが使うには早すぎます。
代償が大きいので。
しかし、その呪文はあの方が初期の戦いで、
よく使われていました。
随分時を遡ったのですね。
光の壁は、陛下の結界かもしれません。

そう、…このお部屋大変だわ、何があったの?
また、お父様に叱られてしまうわね。
それに、あなたの今の姿をご覧になったら、
きっと驚かれるわ。

ラティアはユリウスの姿を見て微笑んだ。

ああ。そうですね。

そう言いながら、とがった耳も、
澄んだ涼やかな瞳も、
元の人間らしい姿に戻してしまった。

部屋を替えてもらいましょう。
そして、今日はもうお休みにならなければいけません。