「いつも同じ夢を見るわ。貴方は何かわかるかしら?その夢が示しているものが…。」

「どのような夢ですか?」

「町。燃えているのよ。白い町並み、長い登り坂。黒髪の乙女。顔はよく見えないわ。その人を金色の髪の…。あれは、魔術師なのかしら。貴方くらいの青年が抱き上げて…。その光景が浮かぶの。いつも、それだけなの。目が覚めてしまう。私助けようとするのだけれど。」

ユリウスはラティアと視線を合わせると、躊躇う様子を見せながらも話し始めた。

「それらの人物は実在していました。それは、おそらく貴女の過去の記憶といっていいのか…。」

「私の過去?」

ユリウスはラティアの瞳に映る月明かりを、見つめながら答えた。

「もっと、ずっと昔の事なのです。千年前、ある王国が滅び、消えた夜の記憶なのです。」

ラティアの瞳に痛みが走った。

「国が滅びた…?では、二人はどうなってしまったの?私はその二人を助けられなかったの?」

「黒髪の乙女とおっしゃいましたね。彼女はその折りの戦いの犠牲となりました。青年は…。」

ユリウスは言うべきか、迷ったが、意を決したようにラティアに告げた。

「千年前の大戦を引き起こしたフィスなのです。」

ラティアは、目眩を感じた。
力が抜け、草の上に膝をついた。
ユリウスが腕を掴んで支えると、苦しげに問いただした。

「では、…では私が、何故その記憶を持っているのか…。ユリウス教えて。なぜ、貴方が私が生まれたときから側にいてくれたのか。その理由を私に分かるように言って。」

ラティアの睫毛から、真珠のような涙が落ちて砕けた。

ユリウスはいつになく厳しい眼差しでラティアを見ると、冷たく言い放った。

「これは、物語ではありません。伝説でも、夢でもありません。貴女が受け止めなければならない運命なのです。逃げることは出来ません。よく聞いて下さい。貴女はサウザードの生まれ変わりであり、その運命も受け継がねばならないのです。」

かつて、これほど激しい様子をユリウスが見せたことは無かった。

「私はラティアよ。何もできないわ。サウザードではないもの。」

「運命は死ねば終わりという簡単なものでは無いのです。何度生まれ変わっても運命は変わらない。変えることが出来るのは、生きている今、この瞬間だけなのです。運命を変えたいのであれば、今その運命と戦うしかないのです。」

ラティアが涙に濡れた目でユリウスを見上げている。

「前世の貴女はとても素晴らしかった。彼も最初は何も出来なかったのですよ。でも、彼はフィスを守りたかった。そして、この美しい世界も。人は強くなれるのです。彼は目的を果たしました。それは、貴女も御存じでしょう?」

優しく語るユリウスの手の温もりが腕に伝わってくる。
ラティアは自分が恥ずかしくなった。
目に見えぬ強敵を前に、戦う気力さえ失った自分を鼓舞した。

 そうだ、何もしなくてもいつかは死んでしまう自分ではないか。

 いったい何を恐れていたのだろう。

 生きる意味と価値は、全力で打ち込む目的が何かで決まってしまう。

 私は、この世界を守りたい。

 それが、私に与えられた運命だというなら、それを私の権利だと思おう。

 私には、この世界を守るべき権利がある。

ラティアはそこまで、思い辿ると勇気が湧いてくるのを感じた。
漠然と生きてきたこれまでの人生が色あせてみえた。
生きる意味を与えられ、類い希なる自由を手にしたのだ。

 今出来る事に全力を投じよう。

ラティアの心が変わった。