「実に、人間の本質を信じて止まぬ、
高尚な意見だな。
しかし、エルフが何故人間から離れ、
境界を作り、交流を絶ったのかを知らないとみえる。
実にそれは、人間は信じるに足らぬ者だからなのだ。」

二人の意志が、じりじりと間合いをつめてゆく。

「悪意と言うものは、
そう簡単に翻るものではない。
生まれついてから、浸かってきた価値観、生命に染み着いた思想の転換は、
耐え難い激しい苦しみを伴う。
それまでの、自分自身を否定することになるのだからな。
転換を受け入れられる者は、
皆無に等しいだろう。」

青年はゆっくりと頷いた。

「しかし、かつては人間もエルフと共にこの大地の上で生きていた。
太古の時代へ、自らの可能性を取り戻せと言いたいのです。
初めから無いのではない、
時の中で失ったものを、取り戻せと。」

今度はユリウスが、頷いた。

「そうだ。かつては人もまた、
生命の輝きを持っていた。
この世界の自然や動物達と同じように、美しかった。

しかし、人間は欲望を剣に、文明を盾にかえ、
世界を自分の下僕におとしめた。
自分達の命を支えてる、此の世の全ての生命を、支配しようとしている。
自分を育て、慈しむ母を踏みにじるに等しい、恥知らずな行いではないか。」

「そのとおりです。
そして、誰もそのことに気づいてはいない。
道理としては分かっていても、
日常の生活を繰り返す点において、
全く意識してはいないのです。
現状は良くない、しかし、変革するという考えは現れてはこない。
愚かだと、思うでしょう。
それでも、私は諦める事など出来ないのです。
目の前に苦しむものがいるのに、
見えぬ場所で苦しむ者がいるのに、
今、自分の楽しみだけを追うことが、
どうしてもできない。
私もまた、苦しいのです。」

ユリウスは俯きため息をついた。

怒りにまかせ、胸の内に秘めていた
人間への不満をすべて吐き出した。

それでも、と彼は言う、
どうしても、と彼はつづけるのだ。
今、目の前にいる青年は、
例えその喉に、剣を突き立てられようと
自分の意志を貫こうとするのだろう。

「よく聞いて欲しい。
君が為そうとしていることは、
とても危険だ。
善意を施されたものが、
感謝するなどと思ってはならない。
君に善意を施す者を信頼してはならない。
かつて、瀕死の黒竜を救った賢者がいた。
彼は死んだ。
彼の最後は、まさにその黒竜の
呪いによるものだったのだ。
現代は、あまりに複雑で醜い悪意に満ちている。
たった一人の戦いとなるだろう。
最後に待っているものが、
死であることは間違いない。
それが、道の途上にあり目的を
達することが出来ないとしても、
それでも、君は行く意志があるのか?
無謀なことなのだ、意味の無いこととも言いたい。
今ならまだ間に合う。
分かっているのだろう?」




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