滝のしぶきが、霧のように降りかかってきた。
ユリウスはその冷たさを、肌に感じながら目を閉じた。

「幸福の真の姿を見た物はいないという。
誰もが追い求めているが、
幻の如く、すぐに消えてしまう。

地位、名声、権力、財力、
その全てを手にした皇帝でさえ、
死を免れることは出来ず、
最後に身にまとうのは、一枚の衣のみだ。

幸福とは陽炎のようなもので、
此の世には存在しないものだと思っていた。

だが、…」

ユリウスは青年の瞳を見つめた。
静かな平穏な瞳が、変わらずそこにあり、
ユリウスの全てを受け止めていた。

「だが、幸福はどこかにあるのではなかった。
ここに、私の中にあることに気づいていなかった。
君は生きる喜びに満ちている。
なすべき事を知っている。
そこに、恐れも逡巡もない。
死を受け入れ、生きることを受け入れている。」

ユリウスは立ち上がり、青年に手を差し伸べた。
青年がその手をつかみ立ち上がると、
ユリウスは静かに膝をつき、青年を見上げた。

「私の主はあなたです。
お名前をお聞かせ下さい。」

青年が言葉を失った。

「君にとって無縁であるはずの、
混沌たる人間の争いに、身を投じると?」

「此の世に生きる、一個の生命としての本質、
此の心の渇望のままに生きることが、
真の幸福であると知ったのです。」

青年が微笑んだ。

そして、ユリウスを再び立ち上がらせた。

「私の名はサウザード。
我が友よ。共に行こう。
絶望と、恐怖を捨てて。
悲壮な決意などとは思わないでくれ。
此の道の先には、確かなる輝きがある。
我々の心にはもはや暗雲はなく、
ただ、進むべき道があるのだから。」




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