星のない夜空に銀の皿のような月がある。
不穏な雲が月をかすめて流れて行く。
風が強い。

竜の吠吼がこだまし、
エルフの弓が風に鳴いている。
ドワーフの重々しい鎧の音が、
背後にせわしなく行き交い、
精霊の知らせが頻々と、
右耳に耳打ちして行く。

闇に浮かぶ、平原とそれを囲む山々の陰、
月明かりに蠢く、敵の群。

「およそ、策や隊列などとは無縁の輩だ。
ただ、突撃の合図を待っている。」

「今夜で全てが終わるのでしょうか。」

「フィスのことだ、奴はまだ来ない。
突撃と見せかけ時間をかせぎ、
こちらに極度の緊張を与え、精神的に疲弊させる。
油断したところを、一挙に殲滅するつもりだろう。」

「確かに、このような緊張が長く続けば、
戦いの前に精神力が失われてしまいます。」

オルカがせわしなく駆けてきて、
小さな書面を数枚、サウザードに差し出しながら、口早に報告した。


「陛下、先程国民はみな、アルジア国へ入りました。」

素早く書面に目を通しながら、
サウザードが頷いた。

「よし。」

平原を埋め尽くし、
ゆがんでは広がり、
再び収縮する、禍々しき鼓動。

黒竜が、低空を飛び後方へ数頭帰って行く。

「ユリウス。皆に食事を取らせよ。
あの月が中天に届く前に、
全員持ち場へ戻せ。
食事に火を用いてはならない。
よいな。」