紫電が雲を縫う。

雷鳴が胸を打つ。

アレスがひときわ強く翼を振り下ろすと、
加速する風が心地よい。

風とは何故、これほどまでに心を鼓舞するのだろう。

嵐の夜は、生暖かい風の荒々しい愛撫に、
闘争心を刺激される。


闇に浮かぶ城壁と尖塔。

叫声をあげ旋回する黒竜。

城の周囲に蠢く大群。

アレスは滑るように近づいてゆく。

『よく来たな
サウザード』

フィスの声が脳に直接呼びかけてくる。

『必ず来ると思っていた。』


城の上空から黒竜が姿を消した。

アレスに道を与えるように、飛去ってゆく。


「フィスがお待ちかねだ。
長い年月、互いに時を使いすぎた。」

サウザードの口元に微笑が浮かび、消えた。


「アレス、あの尖塔の下に行け。
そして、すぐに帰るのだ。
分かっているな。」


アレスの吠吼が大気を振るわせた。


「何という御命令を!
死よりも辛い御命令です。陛下。」


「悲しむ事はない。
何も、悲しむ事など此の世に存在しないのだ。」


勢いよく着地したアレスの爪音が石畳に響きわたる。


「さあ行け。
進み続ける者に悲しみはない。
新たなる喜びとの出会いがあるだけなのだ。
行け。」


アレスの瞳に新たな輝きを認めると、

サウザードは、奥にある開け放たれた扉へ向かった。