ゆっくりと大階段を上って行く。
抜けるように青い空に薄く千切った綿のような雲が流れて行く。
手が届きそうだ。

階段の中程で振り返ると、中庭の木々が、やわらかな秋の日差しに照らされ、葉を揺らしているのが見える。

彼方の海の煌めき。

再びラティアは階段を上り始めた。

金色の緩やかに弧を描く髪が、風に漂う。
しなやかな体を包んだ衣が、風を含む。

「このまま空を飛べたらいいのにね」

階段の上に姿を現したユリウスにラティアが微笑みかけた。

「天使が現れたと騒ぎになりましょう」

「そうはならないわ。だって、私には白い翼が無いのだから」

階段を上りきるとラティアはあらためてあたりを見回した。

象牙色の肌が日の光に輝いた。

いくらか大人びた表情で、彼方の海をしきりと気にしている。

「ここに来たら、もっとよく見えるかと思ったのだけれど。」

「何をお探しです?」

「あなたは知っているのでしょう?この海の先にある場所の事を」

ユリウスが一瞬、顔を曇らせた。

「夢で見たの。遙か遠い場所。今も変わらない場所。」

ゆっくりと雲が太陽を覆い、光が遮られた。
しかし、またすぐに階下から光が駆け上がって来るのが見えた。

「時代は繰り返すと言うけれど。私はそうは思わない。」

光のある瞳がユリウスをはっきりと映している。

「人は叡智の剣で、負の連鎖を絶つことが出来ると信じているの。」

ラティアが微笑した。

「もう一度、私は人を信じたい。まだ、諦めるには早すぎるから。」