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「等身大の『白鳥の湖』」 

 Kのスクールが10周年を迎えることを機に設立されたK-BALLET YOUTH、その第1回公演の初日を観に行きました。(201383日(土)17時開演 於オーチャードホール) 

CONTENTS  
(1)この公演の目指すところと全般的な感想 
(2)ダンサー各位について(女性編) 
(3)ダンサー各位について(男性編) 
(4)今回のサプライズ演出 


(1)この公演の目指すところと全般的な感想 

 若手ダンサーやダンサーを目指す生徒達にKの本公演と同じ装置、衣装、生のオーケストラ、そしてオーチャードホールという一流の場所を用意して、Kと同じ演出の『白鳥の湖』を踊る機会を与えることで、生徒からプロフェッショナル・ダンサーになる懸け橋としたい、そういう熊川さんの強い思いの下に、K-BALEET YOUTHという団が創設されましたが、今回がその第一回公演です。昨年11月に各スクールからオーディションを経て選ばれたダンサー達で結成され、1年近い実技や理論の指導・レッスンを経て漕ぎつけたという、ダンサーも指導者も本気で取り組まなければ、レベルの維持はもとより、やり切ることも難しい公演だと思います。 

 事情のよくわからない方にはこの公演は教室の発表会ぐらいに思われ、なんでこの暑い盛夏に、知り合いが出ているわけでも無いのに安く無い入場料を払ってまで観に行くのか?と感じることでしょうね。現に、今回は同行しなかった老母も言葉の端々にそのようなニアンスを滲ませています。しかし熊川さんのすることは、やはりなるべく現場で応援して、自分の目でその成果を確かめたいです。ボクと同じような気持ちで会場に来られた方も多いことでしょう。 

 結論を先に申しますと、よくここまで教える方も教わる方も頑張った!という好印象です。このぐらいの公演、他の団では普通にお金を払ってみているかもしれない、とすら感じてしまうぐらい見応えがありました。実際には、せっかくの見せ場でしくじってしまう様な、或いはプロだとここはこう踊るよね、と思わせる様な点も当然ながらありましたが、全体のまとまりや完成度は高く、だから細部はあまり気にならずに、ドラマに感動しました。広いステージや立派な衣装・装置に負けることも無く、本公演同様にマエストロ・井田さんが指揮されるシアター オーケストラ トウキョウの豊潤な響きに支えられて、熱いけれど爽やかな快演です。王子、オデット、オディールの役々と出演者の年齢は近いのですから、ビッグネームの方達が踊るよりも等身大の『白鳥の湖』をみせてもらったという、良い後味を感じました。 


(2)ダンサー各位について(女性編) 

 今回の公演で一番充実していると感じたのは、第2幕と第4幕の白鳥の群舞です。よく揃い、王子やオデットが舞台の真中で繰り広げるドラマによく反応していました。プログラムにK-BALLET YOUTHの溝下芸術監督が、『白鳥の湖』のことを次の様に書いています。 

「2幕・4幕は全体を調和させて動きを揃えることが難しく、また1幕・3幕は若いダンサーにとっては雰囲気を出すことに苦労する」 

正にこのことを意識した指導の成果が、よく現れていると思いました。 
 また、手足の長さや体のしなやかさも揃って美しく、これで本当に生徒たちなのかと目を疑うほどです。プログラムに掲載されている写真を見るとまだまだ顔は少女ですが、しかし舞台の上でのシルエットの美しさは、正団員かそれ以上ではないかとも思いました。わずかな年齢差でも、若い方達の体のプロポーションは変化しているのでしょうか? 

 初日のオデットの新井有里さん、初日と二日目の両日を踊るオディールの大井田百さんは、まだスクールの生徒です。新井さんは顔も体も細く、どこからあのしなやかな強さが出てくるのかと思いました。今までに自分が観た中では、ジュリー・ケントさんを思い起こしました。 
 大井田さんは、さすがに二日共に踊るだけあって、表情や表現の味わいも濃く、キレも良いです。KのDVDでよく研究されたのでしょうね、モニカ・ペレーゴさんを連想しました。例のグラン・フェッテでは、途中で一度体が倒れてしまい足を着きましたが、御本人は残念でしょうけれど、観る方は堂々と踊っていますのでそんなことは気になりません。 


(3)ダンサー各位について(男性編) 

 王子は、既にカンパニーの正団員の福田昂平さん。東北大震災直後の『ピーターラビットと仲間たち』の舞台で彼が「まちねずみジョニー」を踊るのを観た時に、役に相応しいジェントルな踊りぶりがとても気に入り、被り物を被っている役ですから顔が出ていなかったにも関わらず、とても印象に残りました。したがって今回は、おそらく彼が初めて全幕でジークフリード王子を踊る機会であろうこの日を選んで観に行った次第です。 

 今回のプログラムでは、主役級を踊るダンサー達がアンケート形式で役や将来の目標等について語っていますが、福田さんはジークフリードのことについて、 
「若く誠実でさわやか、中性的なイメージです」 
と語っています。確かに熊川さんよりももっと柔らかく少年っぽくて、威厳はまだ薄い感じではあるものの、王子としての品格もあり(おそらく御本人の身に備わった上品さも滲み出ている・・・)、清新です。 
 王子としての役作りの厳しい指導は、今までもTVやDVDで、芳賀さん、宮尾さん、浅田さん達が、ビシビシと熊川さんからしごかれるところを観てきましたが、福田さんもその特訓の末に到達した境地なのでしょうね。最大の見せ場で難所でもある第3幕のバリエーションも、その柔らかさのまま弾むように演じていて、大きな拍手を浴びました。 

 また、この「中性的なイメージ」ととらえた福田さん感性や役作りにも、二つの点で唸らされました。福田さんがどのように感じてこの表現を選んだのかは御本人に確かめないとわかりませんが、確かに大人の男に成る前の少年には中性的な風貌や雰囲気がありますので、花嫁選びを母から宣告される年頃のジークフリード王子には中性的なイメージが相応しいと思うのが、唸らされた理由の一点目。 
 二点目はボクの考えすぎかもしれませんが、歌舞伎や浮世絵の中の若衆の表現と通ずる点を彼が言い当てたことで、華やかかつ柔らかなイメージを与え、そして運命に翻弄される悲劇の王子像を予見させてくれたこと。 
 歌舞伎や浮世絵の中の二枚目や美少年は、前髪立ちで華奢な体づきをし、或いは年齢や体型がその様では無い役者の場合でも、その様に見える様に演じます。所作が柔らかくなり、時として女性と見まごう様な化粧をして柔らかい色の衣装を身に纏いますので、当然ながら中性的な雰囲気を醸し出します。 

 福田さんは、熊川さんをはじめとするKの先輩達とは少し違う感性でジークフリードを受け止め、それが今の年齢や容姿とも呼応して独特の華やかで柔らかな王子を作り出していたと思います。 

 良かった点をもう一点。小道具の白鳥の羽根の扱いがとても丁寧だと思いました。第2幕でオデットが落して行った一本の羽根を王子は拾い、第3幕では襟元に刺して登場しますが、花嫁候補たちの中にオデットが居ないことがわかった時にその羽根を手に取り眺めてオデットを思い出すところなど、少年が両手で小鳥を持つようにそっと柔らかく持っていました。Kの公演でこの演目は何回も観ていますが、今回が一番、王子の手元にある白い羽根の存在を意識づけられました。 

 課題は、顔の表情かと思います。3階から観ていてもわかるぐらい豊かなのは良いのですが、にこやかな表情はいつも同じように見えたので、もう少し変化があると良いのではないでしょうか? 

 若さや幼さに共感させられるような王子も大好きで、今回は前述の通り、今の福田さんならではの魅力的なジークフリードを観ることができました。これからダンサーとしても人間としても成熟されるにつれて、いずれは本公演の場で、かつての熊川さんとビビアナさんのコンビの様に濃厚な第2幕のパ・ド・ドゥをみせてくれるようなダンサーになることも楽しみです。引き続き応援していきますので、頑張れ~! 

 ロッドバルトの杉野慧さんは、キャシディーが演じた時の巨悪のような大きさや存在感はまだ無いものの、中腰になって体を沈めたり、フクロウの様に首を動かす動きもきっぱりとしっかりと踊って、ドラマの牽引役になっていたと思います。今回はプログラムの表紙にまで選ばれて、ご本人は驚きながらも大変にうれしかったのではないでしょうか?今年の冬のドロッセルマイヤー(初挑戦でしょうか?)が早くも楽しみです。 

 ベンノの益子倭さんは、本公演でもいけそうかな?と思わせる様な、役の雰囲気を持っていました。今回は、ベンノの見せ場も増やされていたと思います。熊川版では第1幕で家庭教師が女の子二人に振り回され、ギックリ腰になるぐらいひょうきんに踊るシーンがありますが、ここのところが、他団の演出で道化師がグラン・フェッテを見せるように、ベンノがフェッテを見せました。カーテンコールでは、宮尾さんの様にちょっとためらいながら引っ込むところまで、先輩を真似たアピールをしていましたね。 

 以上の様に書くと、今回の公演が本公演と差が少なく、もう入場料の高い方の本公演を観なくても良いぐらいに思われそうですが、左にあらず。やはり本公演との差を感じた部分もありました。今回ボクは、Kの『白鳥の湖』を初めて3階から観たように思いますが、第1幕でコールドが円を描いて踊るところでは、ダンサーの間隔が等間隔にならなかったり、パ・ド・トロワでは女性ダンサーのスカートがいつもはそうならないぐらいひるがえってしまったり、と本公演では当たり前のことがYOUTH公演ではそうならい場面がありました。本公演で踊れるダンサーになるためには、目立つテクニックや大技の他にも、心得の様に身につけなければならないことがまだまだたくさんあるのでしょう。 

 今回出演した若手ダンサーとそれに向けて学ぶ皆さん、1年間よく頑張り、そして楽しませてくれてありがとうございました。若いのに、日焼けもしないように気を使いながら公演まで色々な辛抱・精進を重ねてきたのではないでしょうか?将来、プロのダンサーになってもならなくてもこの頑張りや努力を続けた経験は、自分の中で、自信や糧として活かされていくことでしょう。どうぞ、残る1日の公演を終えたら、若者らしい夏休みを迎えて下さい。 


(4)今回のサプライズ
演出 

 そうそう、今回の公演独特のうれしいことが開幕前と幕間にはありました。 
 先ずは、まだ客席の電気がついているうちに熊川さんが登場し席に着いた「よう」であったこと。残念ながら席が3階なので確かめられなかったのですが、あの1階席の拍手喝采はそうなのでしょう。 
 なお、今回はカーテンコールにも熊川さんは登場し、溝下芸術監督や荒井祐子さん等の公演を指導された皆さんと共に拍手を受けられていましたが、服装はブラックスーツに蝶ネクタイの正装でバッチリ決めていました。 

 また1幕と3幕の開幕前には、『くるみ割り人形』の第1幕の人形劇に出てくる子役(お菓子の国の王様、王女様、くるみ割り人形、マリー姫)の扮装で子供たちが客席の最前列に登場し、開幕を告げるベルを振って響かせながら、一回客席を縦に通って退場するという、心を和ませる演出がありました。本公演でも演目によってはあっても良い様に思う様な、グッドアイデアです。その後に電気が暗くなり、オーケストラのチューニングが始まった次第です。

 以 上