ただいま電撃大賞に向けて小説を執筆中です。
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基本遠慮はいりませんよ(笑)
こちらではあたしの日常をお送りしていますので
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涼香の日常
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テオブロミン
バレンタイン記念です。
「おい!起きれよアホォ」
痛っ! ったく何するんだよ、俺はまだ安眠していたのに。誰だかわからないが、俺の体を揺すったり強請ったりする。
「もう終業のチャイム鳴ってるんやけど」
「マジで?」
俺は驚いた拍子に体を上げた、その瞬間、
「いたぁ!」
俺の体を揺すったり、強請った奴の顎に俺の後頭部が綺麗に、華麗にヒットした。俺を起こそうとするからこうなるんだよ、罰当たり者め。
そう思った瞬間、俺の脊髄に一筋の手とうが下る。もうそろそろ限界だ……。
「こんの野郎! いい気になりやがって、女だからって容赦ねぇぞ!」
「望むとこや、万年寝太郎にうちがやられるとでも思う?」言いたい放題言ってくれるじゃないか……。そんなのやってみないとわからないじゃないか。
俺は強く右手を握り締め、大きく振りかぶった。
とたんビンタ二発。
もちろんノックダウン。
「しょうもないことやめて帰ろうや」
彼女はそう言って手を差し伸べた。発端はお前だろうが! と突っ込みたくなるけれど、俺も俺だ。何が睡眠中枢を刺激したかは知らないけれど、昼休みからぶっ続けて終業まで寝る奴がどこにいる? 付け加えると昨日は学校から帰ってすぐ眠ったので12時間睡眠となるのか?
「何物思いに耽ってるん? か弱い女の子の特権は暗い夜道を歩くと襲われことやねんから家まで送っていってな」
「はいはい」
「はいは何回?」
「二回、いや三――」回、という前に鼓膜を破くような音が教室に響く、なんて強烈なビンタなんだ。
「お前、関西人なんだろ? そんな些細な冗談も通じないでよく生きてこれたな! 笑いの街で」
「大阪の人はそんなしょうもない洒落言わへんもん、あんたとはレベルが違うんよレベルが」
そう言って彼女は僕の手を引き、廊下へ引きずっていく。
彼女の名は香美。一ヶ月前からこの東京の限りなく千葉に近い地域に引っ越してきた。何故か一人暮らしで、何故か六月という中途半端な季節に引っ越してきた。綺麗で艶のある黒髪を有効利用しないショートヘアーと、端正な顔立ちに似合わない荒い口調と男勝りな性格が気に入り、俺は転校初日から彼女の面倒を見ることにした。この街にあるスーパーやらコンビニやらの場所から学校のことまで、知る限りの街の情報を彼女に伝えた。
その結果今では彼女の方がこの街のことを良く知り、そして今じゃ俺が面倒をかけている始末。本当に情けない限りだ。
そんな彼女でも一瞬だけ女の子のような顔を見せる瞬間があった。
「なぁ香美。お前、彼氏できた?」
そういうと彼女は少し儚げに移ろいだ表情を見せ、決まって俺とは逆方向に顔を向け、「別に」と言う。
俺は香美のそんな顔を愛らしいと思い、同時に哀らしいとも思った。きっと大阪で何かあったのだろう。その言葉を口にすることなく、もう二週間がたつ。けれどそれを言ってしまうと二人の関係が崩れてしまうことが容易にわかった。それほど彼女は愛らしく、哀らしい傷を背負っているのだろう。
「あんた、今日は暇?」
「何かあるのか? 女友達でも紹――」やはり最後まで言う前に、顔面にカバンが飛んできた。わかっていてもやってしまう、人をからかうのは面白い、同時に痛みも生じるけれど。
「ご飯食べにきぃよ、賞味期限間近の食品オンパレードやから男手ひとつ貸りらなゴミ箱にポーンせなあかんなるから」ね、とウインクをした。
途端寒気がした。いくら何でもこのご時世にそれはないだろう? そこそこ顔が良くたってそれはNGだ、モデルくらいの容姿ならわかるけど。
「来るのけぇへんの? はっきりしいや」
ここで行かないと言えばどうなるのだろ? 考えずとも痛い目に遭うと決まっている。それに行かない理由もないので、「行きます」と力強くうなずいた。
彼女の部屋はやっぱりと言うか、何というか、片付いていた。世間の主婦が嫉妬するほどの整理整頓振りだ。バイトもしているのにどうやってここまで綺麗にできるのだろう、ちょっと不気味。
「ほな、出来るまで適当にくつろいどいてな」
香美はエプロンを着ながら俺のほうを見た。その眼が何か誘っている気がしたので、居ても立ってもいられず、
「新婚さんみたいだな」
…………。
「痛っ」
無言で顔面を蹴り上げるなんて、冗談で出来る類のモノじゃないぞ。こいつの神経どうなってるんだ?
「誰がそんな言葉を求めたん? 次言ったらどうなるか覚えときや」
包丁をかざしながらそんなこと言われるとYESしか浮かぶ言葉はない。
そう言えばこいつ、またあの表情をしたな。新婚どうやらこうやら言ったとき。僕が一番好きな顔、そして同時に胸が痛む顔。
そして僕はまた口に出かけたあの言葉を飲み込み、香美の部屋を粗探しすることにした。だって悔しいじゃないか、同学年のくせに、こんなに部屋をキレイにできているなんて……。きっとどこかに穴があるはずだ、そう思いながら香美の目を盗み、引き出しやら押入れやらを探しまくった。
数分が経過し、ほぼ全て見終わり、どこもかしこも完璧に整理整頓されている絶望感を抱きながら、最後の最後。
俺は、押入れの一番奥にある卒業アルバムに手をかけた。
何でこんな無くしそうなところにこんな大切なものをしまっているのだろう? 俺は疑問に思い、そして好奇心に負けアルバムをめくった。
色々な覚悟をしながらページをめくった。
するとスルッと一枚の写真が滑り落ちてきた。それは偶然と必然の狭間で動いた運命の歯車だったのかもしれない。
その写真には芝生が茂る広場で、髪の長い香美と快活そうな少年が肩を組み、これ以上ないくらい幸せそうな顔で笑っている。
瞬間、これだなと思った。
瞬間、視線を感じた。
俺はどんなキツイ痛みでも耐える心意気で振り向いた。
泣いていた。
無いていた。
成いていた。
俺はどうすれば自分の行いを償えるだろうと思いながら香美に手を伸ばした、けれどはじかれた。
嗚咽ながらも香美は言う。
「なんで今を見てくれへんの? 昔のことばっかり、昔のことばっか。そんなに気になる? ほな教えてあげよっか。その覚悟があんたにある? ないやろ? あんたはそんなこと言えるような男前ちゃうもん。……うちが間違いやってん、ちょっと似てると思ったけど『似てる』は所詮『似てる』や。どうもできへん。」
俺はどうしていいかわからずただ香美を見つめる。
「そんな眼で見らんといて、あたしに同情するん? あんたのような知恵の無い寝てばっかりのアホに同情なんかできるわけないやん」
「それくらいやったらできる」俺はたまらず口を開いた。
「ほな、なんでアルバム見たん? あんたもガキやないんやからうちを見てて、大阪で何かあったって気づいたやろ?」
僕は唯うなずく。
「もう嫌や! 出て行って! もう二度とうちの前に来んといて」
「いい加減にしろ!」
「――?」
「悲しみ悲しみ悲しみって、お前が教えてくれないから何があったか想像するしかできないけど、男の一人や二人なんだって言うんだ? そいつに心を奪われて悔しくないのか? どうだ? 悔しいだろ?」
香美は涙を拭いながら悔しいと言った。
「なら塗り変えれよ、塗り替えてしまえばいい。それに俺はお前が……。」
好きだ。
なんて言えるわけが無い。どの面下げて言えるというのだ、馬鹿野朗。
僕が深刻そうな顔をしているというのに香美は急に笑い出した。
「いきなり好きやなんて、アホちゃう?」
えっ!?
「俺なんか言ったのか?」
「好きって言ったで」
本当に? もしかして思わず口に出てしまったのか?
「その顔、那実がうちに告白したときとそっくりや」
「那実?」
彼女は那実という名を口にするとすごく幸せそうな、崩れそうな笑顔を見せた。
「なんでもない、独り言。……なんかいろんなこと言ってスッキリしたわ、ご飯にしよか」
俺は安心した。このまま崩れていくはずだった二人がいつもどおりの笑顔を移し合えた事。この繋がりを人は何というのだろう。
香美の部屋のように綺麗に食い片付けられた皿を背に俺は部屋を出た。
「今日は色々とありがとう」
「何言ってるん? あんたとうちの仲やん」
何度見ても彼女の笑顔は温かい。
「その……返事なんだけど」
「まさかこのタイミングで聞きに来るとは」香美は声を上げて笑った。
「どこまで女々しいの? まぁあんたらしいな、いつまでがいいの?」
ってお前もその返事はセコイんじゃないか?
「じゃ……、バレンタイン」
「へ?」
「俺、チョコとか貰ったことないから、せっかくの記念になるんならその日がいいと……」
こいつめ笑ってやがるな、人の話も聞かずにゲラゲラと。こっちは真剣だって言うのに。
「そんな眼で見らんといてよ、怖い怖い。いや、自信満々やなと思って。うんわかった。ほなまだまだ先やけど、約半年後を楽しみにしときなさい!」
「うすっ」
それだけ言うと香美は静かに、扉を閉めた。
微笑みながら。
そこに哀らしい表情は無かった。
それが俺にできる、できる限りの思いやりだ。
叶わないことはわかっている、すべての願いが叶うというならどれほど面白くない世界なのだろう。叶わない痛みを忘れることもできず、しがみ付きながら過去を思い、憂い、愛し、そうやって人は生きてきた。なら俺だって香美だってできないはずはない。
俺は最後の侘しさで、携帯を手に取り、ダイヤルする。
「またいつか……」
それだけ言って俺は電話を閉じた。
思ったとおり、その日から香美の姿を見ることはなかった。
彼女は過去と向き合うことにしたのだ。それは酷く辛く、哀しい選択だっただろう。でもその重要性を知った香美ならきっと大丈夫。
俺のような仕様の無いボケをする奴などいない大阪の町できっとうまくやっていける。過去に打ち勝っても打ち負けても……きっと。
そんな彼女のことを一日、一時間、一分たりとも忘れること無く半年が過ぎた。
その日、いつものように学校に行き、半分を寝て過ごし、家に着くとポストに無理やり赤い箱が押し込まれていた。
俺はまさかと思い、その赤い箱を手に取った。
宛名は香美からだ。
何かメッセージに準ずるものを探したけれど見つからなかった。
ただ大きな丸い形をしたチョコレートが包まれているだけだった。
受付日は……七月十四日?
俺は急いで香美の携帯に電話をした。
この番号をダイヤルするのはあの日以来だろう。
高鳴る胸。
「はい」
出た。
――けれど違う、香美の声じゃない。
「あの? 香美さんじゃないですよね」
「あなた、香美の友達ですか?」
「はい、東京の」
すると電話越しの女性は声を詰まらせた。
何かとてつもなく嫌な予感がする、一体何があったのだろう?
「香美はもういません」
やっぱり。
僕は何も言わず、そのまま電話を切った。
彼女は過去に飲まれてしまったのだ。
その絶望に打ち勝つことができなかったのだ。
何が勝っても負けてもだ。
この無責任、この偽善者、この……
「万年寝太郎!」
その声に僕は振り向く。
「何、死んだような顔してるん?」
もう幻でもなんでもいい。俺は目の前にいる、ただ逢いらしいだけのそれを、ただ愛らしく抱きしめた。
彼女がここに来た意味を、この日に来た意味をかみ締めながら。
