空が暗い間 第23話
俺は、今にも壊れそうなボロイ写真屋の扉に右手をかけた。
ここは俺がいつも写真の現像をする写真屋だ。
この店に初めてきたのは中学生の頃で、確かあのときは駄菓子屋と間違えてこの写真屋に入った気がする。まあ、それくらいボロイということだ。その上現像の時間もかかるけど、値段が異常に安いのでいつも利用している。
扉を開けると、写真屋のくせに何も飾っていない殺風景な店内で、唯一普通那ところである、レジカウンターに置いてある椅子に座り、こちらを睨みつけているチビがいた。
目が合うと、俺だと認識したのか、いかにも小悪魔的笑顔で、
「鉄板やっ!」
いらっしゃいませではなく、そんな挨拶をされた。
いや、これは挨拶じゃないな。
鉄板とは確か、お笑いの業界用語で、絶対にウケるとかそう言う言葉だった気がする。ということは俺の撮った写真が面白かったって事か? それとも俺の顔?
「ども。……本当に出来たのか? いつもに比べると仕事が早すぎやしないか?」
「ホンマ失礼なガキやな。暇やから早く仕上げてあげたのに、ちょっとくらい感謝せえや」
いつもなら最速でも一週間で遅くて一ヶ月。そして今回、最速記録四日が出た。理由がそれかよ。
「暇だから仕事早めることは当たり前だ」
「うっさい、バイトしかした事ない奴に言われたないわ」
コテコテの関西弁で話す店員はアキナさんといって、ただ一人の店員だ。ということは店長だな。でもどう見ても店長には見えない、というか高校生にすら見えない、中学生くらいに見える。まあ風格はあるといえばあるけど……。
「……あんたまたうちのことチビやら年下やら何やら思ってたやろ。うちはあんたより間違いなく年上や背はちっちゃくても。次疑ったら現像代、一枚につき一〇円アップや!」
妙にリアルな金額だ。まあそれでも他の写真屋に持っていく寄りは安いけどな。一応謝っとくか。
「図星ですアキナさん。ごめんなさい」
アキナさんは写真屋のくせに読心術に長けていて、こうやって頭で考えている事を読まれる事が多い。でも現像しか行っていない写真屋にそんな特技不必要だろ。
「あんたホンマ物覚え悪いな。前も言ったやろ。うちは占い師や。副業はこっち」
俺の心の中をまた呼んで、明菜さんは、異星人とマジックで書かれた茶封筒をカウンターに叩き付けた。
俺はその茶封筒を開けて、中に入っている写真が俺の物かどうか確認をする。間違って他の人の写真を渡されると気分も気味も悪い。
「ありがとう。積もる話しもないわけではないが、今日は気分じゃない。そしたらまたよろしく」
財布から百円玉を取り出してアキナさんに投げると、明菜さんは何故かその百円を平手で打って俺に放り返した。
いつもああやって渡しているのに今日はどうしたんだ?
キョトンとしている俺に、アキナさんは少女らしい顔に似合わない、不適な笑顔で下から睨みつける。
「金はいらん。おもろいもん見せてもうたし。それに……あんたいつも生気なさそうな顔してるけど、今日は特にないな、死に顔みたいや。そやな、亡霊と別れたって感じや」
「亡霊って。亡霊なら別れられるとうれしいでしょ?」
「皆まで言おか? そんなん青春まっただ中なエセ異星人には酷とちゃう? まあうちはおちょくれておもろいけど」
とニンマリアキナさん。
この人とは気が合うかもしれないが、背が合わないので少し苦手だ。ガキにおちょくられているみたいで心持ちがよくない。
俺はありがとうと呟いてから、アキナさんに背を向けて、扉に手をかけた。
「そう言えば、面白い写真ってもしかして心霊写真とか?」
「幽霊なんかおるか。しょうもない、あんなもん幻覚や」
とさっきまでの笑顔とは対照的な仏頂面をして、俺の方に手を向けると、シッシッと早く帰るよう促す。けれど、俺はつい反抗心でしょうもない言葉を発してしまった。
「どうして俺、生気ないかわかります? 俺にはわかりません」
返答は期待してなかったけど、面倒くさそうなアキナさんの声が返って来た。
「ほんっまにしょうもない質問やな。いや、相談か? まあうちの読心術を用いればそれくらいめっちゃ、めーっちゃ簡単やけど、あいにく、うちはそういうのめっちゃくちゃ嫌いやねん。仕事以外でしたないわ。そやな、巨人か中日かってくらい嫌いや。
それにな、そんなこと自分以外に誰が知ってるん、アホか。脳みそかき混ぜて考えガキが、アオイ、クサい、フタせい! あんたはいっつも出オチや。笑いも人生も一緒、オチが大事や……っておい!」
お笑いの話しになるとアキナさんは止まらない。
一度、二時間ほど話しが続いた気がする。そんなもの俺には興味がないので、引き止めるアキナさんの声を無視して店を出た。
少しアキナさんの怒鳴り声がうるさいが、俺は歩きながらさっき現像した写真を見る事にした。
一体、山で撮った写真で面白い物なんて、UFO、UMA、幽霊以外のなんだって言うのだろう?
適当に写真を見ていくが、これと言って異変のない、普通の夜の葛城山って感じだ。どこが変だって言うのだろう?
そして半分くらいまで写真を見ていくと、妙に哀愁漂う写真が出て来た。
「羽田か……」
その写真は羽田が寺の階段を下りているとき、いきなり山道に駆け出して、ぶっ倒れたところを後で笑い者にしてやろうと思って撮った写真だ。
もう一緒に見る事はないけど、始業式くらいにこっそり机の中にでも入れといてやろうかな。
………!
そんなのんきな事を考えていた俺は、アキナさんが言う『面白い物』をその写真に発見してしまった。
薄暗い木々の中を、うつぶせで倒れている羽田。その周りには当たり前だけど、雑草や木の幹が映っているはずだ、いや、この写真にも写っている。
でもこれは何だ?
この白い輪のようなものは?
羽田をかたどるように、その周囲には白いモヤのような物がうっすらと映っている。
俺は見間違いかもしれないと思い、太陽にその写真をあてて見直すが、最悪だ。余計に白いモヤが濃く映り出した。
何だこれは? もしかしてこれが羽田の多重人格の正体だろうか……、と言う事はあいつ本当に異星人?
そんな浅はかな考えはよくないと思っても、その輪のようなモヤはそう思わせるに十分な存在感を、たかが紙切れに映し出していた。
俺は、今にも壊れそうなボロイ写真屋の扉に右手をかけた。
ここは俺がいつも写真の現像をする写真屋だ。
この店に初めてきたのは中学生の頃で、確かあのときは駄菓子屋と間違えてこの写真屋に入った気がする。まあ、それくらいボロイということだ。その上現像の時間もかかるけど、値段が異常に安いのでいつも利用している。
扉を開けると、写真屋のくせに何も飾っていない殺風景な店内で、唯一普通那ところである、レジカウンターに置いてある椅子に座り、こちらを睨みつけているチビがいた。
目が合うと、俺だと認識したのか、いかにも小悪魔的笑顔で、
「鉄板やっ!」
いらっしゃいませではなく、そんな挨拶をされた。
いや、これは挨拶じゃないな。
鉄板とは確か、お笑いの業界用語で、絶対にウケるとかそう言う言葉だった気がする。ということは俺の撮った写真が面白かったって事か? それとも俺の顔?
「ども。……本当に出来たのか? いつもに比べると仕事が早すぎやしないか?」
「ホンマ失礼なガキやな。暇やから早く仕上げてあげたのに、ちょっとくらい感謝せえや」
いつもなら最速でも一週間で遅くて一ヶ月。そして今回、最速記録四日が出た。理由がそれかよ。
「暇だから仕事早めることは当たり前だ」
「うっさい、バイトしかした事ない奴に言われたないわ」
コテコテの関西弁で話す店員はアキナさんといって、ただ一人の店員だ。ということは店長だな。でもどう見ても店長には見えない、というか高校生にすら見えない、中学生くらいに見える。まあ風格はあるといえばあるけど……。
「……あんたまたうちのことチビやら年下やら何やら思ってたやろ。うちはあんたより間違いなく年上や背はちっちゃくても。次疑ったら現像代、一枚につき一〇円アップや!」
妙にリアルな金額だ。まあそれでも他の写真屋に持っていく寄りは安いけどな。一応謝っとくか。
「図星ですアキナさん。ごめんなさい」
アキナさんは写真屋のくせに読心術に長けていて、こうやって頭で考えている事を読まれる事が多い。でも現像しか行っていない写真屋にそんな特技不必要だろ。
「あんたホンマ物覚え悪いな。前も言ったやろ。うちは占い師や。副業はこっち」
俺の心の中をまた呼んで、明菜さんは、異星人とマジックで書かれた茶封筒をカウンターに叩き付けた。
俺はその茶封筒を開けて、中に入っている写真が俺の物かどうか確認をする。間違って他の人の写真を渡されると気分も気味も悪い。
「ありがとう。積もる話しもないわけではないが、今日は気分じゃない。そしたらまたよろしく」
財布から百円玉を取り出してアキナさんに投げると、明菜さんは何故かその百円を平手で打って俺に放り返した。
いつもああやって渡しているのに今日はどうしたんだ?
キョトンとしている俺に、アキナさんは少女らしい顔に似合わない、不適な笑顔で下から睨みつける。
「金はいらん。おもろいもん見せてもうたし。それに……あんたいつも生気なさそうな顔してるけど、今日は特にないな、死に顔みたいや。そやな、亡霊と別れたって感じや」
「亡霊って。亡霊なら別れられるとうれしいでしょ?」
「皆まで言おか? そんなん青春まっただ中なエセ異星人には酷とちゃう? まあうちはおちょくれておもろいけど」
とニンマリアキナさん。
この人とは気が合うかもしれないが、背が合わないので少し苦手だ。ガキにおちょくられているみたいで心持ちがよくない。
俺はありがとうと呟いてから、アキナさんに背を向けて、扉に手をかけた。
「そう言えば、面白い写真ってもしかして心霊写真とか?」
「幽霊なんかおるか。しょうもない、あんなもん幻覚や」
とさっきまでの笑顔とは対照的な仏頂面をして、俺の方に手を向けると、シッシッと早く帰るよう促す。けれど、俺はつい反抗心でしょうもない言葉を発してしまった。
「どうして俺、生気ないかわかります? 俺にはわかりません」
返答は期待してなかったけど、面倒くさそうなアキナさんの声が返って来た。
「ほんっまにしょうもない質問やな。いや、相談か? まあうちの読心術を用いればそれくらいめっちゃ、めーっちゃ簡単やけど、あいにく、うちはそういうのめっちゃくちゃ嫌いやねん。仕事以外でしたないわ。そやな、巨人か中日かってくらい嫌いや。
それにな、そんなこと自分以外に誰が知ってるん、アホか。脳みそかき混ぜて考えガキが、アオイ、クサい、フタせい! あんたはいっつも出オチや。笑いも人生も一緒、オチが大事や……っておい!」
お笑いの話しになるとアキナさんは止まらない。
一度、二時間ほど話しが続いた気がする。そんなもの俺には興味がないので、引き止めるアキナさんの声を無視して店を出た。
少しアキナさんの怒鳴り声がうるさいが、俺は歩きながらさっき現像した写真を見る事にした。
一体、山で撮った写真で面白い物なんて、UFO、UMA、幽霊以外のなんだって言うのだろう?
適当に写真を見ていくが、これと言って異変のない、普通の夜の葛城山って感じだ。どこが変だって言うのだろう?
そして半分くらいまで写真を見ていくと、妙に哀愁漂う写真が出て来た。
「羽田か……」
その写真は羽田が寺の階段を下りているとき、いきなり山道に駆け出して、ぶっ倒れたところを後で笑い者にしてやろうと思って撮った写真だ。
もう一緒に見る事はないけど、始業式くらいにこっそり机の中にでも入れといてやろうかな。
………!
そんなのんきな事を考えていた俺は、アキナさんが言う『面白い物』をその写真に発見してしまった。
薄暗い木々の中を、うつぶせで倒れている羽田。その周りには当たり前だけど、雑草や木の幹が映っているはずだ、いや、この写真にも写っている。
でもこれは何だ?
この白い輪のようなものは?
羽田をかたどるように、その周囲には白いモヤのような物がうっすらと映っている。
俺は見間違いかもしれないと思い、太陽にその写真をあてて見直すが、最悪だ。余計に白いモヤが濃く映り出した。
何だこれは? もしかしてこれが羽田の多重人格の正体だろうか……、と言う事はあいつ本当に異星人?
そんな浅はかな考えはよくないと思っても、その輪のようなモヤはそう思わせるに十分な存在感を、たかが紙切れに映し出していた。