大の里が大関昇進。「謹んで申し上げます」など少しミスがあったものの唯一無二と口上。ここに史上最速大関、ちょんまげ大関の誕生。初土俵の翌年に大関、負け越し経験なし、すべての場所で三賞受賞のまま大関。何もかも異例である。一体どこまで勢いが続くか。尊富士の優勝と合わせ常識を覆す記録続きの相撲界だ。

 

 

十両も発表。昇進は6人。元大碇の甲山の息子・若碇、ウクライナの安青錦、琴勝峰の弟の琴手計改め琴栄峰。再十両に栃大海、千代丸、生田目。6人の昇進は久々。引退力士に加え十両は休場、不成績が続出した。おそらく陥落は妙義龍、碧山、貴景勝の引退3枠に千代榮、木竜皇までは確定。最後の1枠が全休の朝乃山か14枚目で6勝の欧勝海だが、欧勝海残留ではないか。やはり出場力士の方が有利な傾向。阿武咲も筆頭で1勝から休場と陥落相当だが今回はラッキー残留のはずだ。

 

 

引退力士も相次ぐ。貴景勝に続き妙義龍と碧山とベテランが退いた。それぞれ振分、岩友を襲名。さらに元十両大成龍、琴裕将ら8人も引退。これで11人。琴裕将は若者頭に転向する。引退力士が即若者頭となるのは2001年の栃乃藤以来23年ぶり。この5年で若者頭は3人が定年、死去したものの虎伏山が世話人から異動したのみだった。10月に花ノ国も定年。これを見据えた補充だろう。世話人の採用に加え久々の新規採用。

 

5場所での引退力士は69人となる。一方の入門は53人で今年も退職>採用の状態が続く。

 

碧山の引退で昭和10年より続く春日野部屋の関取連続記録が途絶える所だったが、栃大海の昇進で何とかつながった。しかし十両定着できるか未知数。先延ばしになっただけのように思う。

 

若者頭の花ノ国が定年する。若者頭ながら前頭筆頭が最高位、金星、三賞経験ありと実績は親方並。ネット上でも人気だった。今後は「銭湯代ぐらいは稼ぎたい」とのこと。ユーモアあふれる名裏方であった。

 

 

14日目、大の里が勝ち2度目の優勝、 そして大関昇進も確定だ。史上最速の初土俵から9場所、負け越し経験なしの大関となる。異例であり異常ともいえる。快挙だが手放しで喜んでいいか。

 

豊昇龍戦は曙貴乃花を彷彿とさせる一方的なもので、押しの驚異を見せた。貴景勝が静かに土俵を去ったが押しの横綱の誕生を予感させるものである。

 

今場所は大の里の壁となる力士がいなかった。というのも平幕上位以上が不調力士ばかり。大関2人は勝ち越しがせいぜいで、三役も停滞気味だったが貴景勝の引退に加え阿炎、平戸海が負け越し。久々に大きく入れ替わる。好調は霧島ぐらいなものでその霧島とて大の里戦は変わり身を見せ失敗。技能派の若隆景が気を吐いたが、このような力士がもう数人出てこなければ大の里の天下待ったなしだ。

 

 

 
と思ったが千秋楽阿炎戦。阿炎は勝ちにこだわるタイプで形振り構わないのだがのど輪からはたくとバッタリ。締まらない終わりだ。阿炎は10敗力士。やっぱり脆さが残る。大関で大の里3連敗!とアナが連呼するような場面を想像してしまう。不穏だ。腰の高さと脇の甘さが直らなければどこまで快進撃が続くか…
 
大の里を追走した力士は錦木、高安、若隆景、霧島といったところ。琴櫻も序盤は食いついたが中盤以降崩壊。錦木はもはや降下するだけと思われたが意外。上半身の力を生かした力相撲が目立った。高安も立ち合いを変え突き押しに徹していた。若隆景は大の里に唯一黒星をつけた。攻防の激しさは今場所どころか今年一番のベストバウトにしてもいい相撲だ。
 
やはり中に入ってパワーを封じるのが大の里には効果がある。 霧島は組んで離れてと以前の自由な相撲ぶりが戻ってきた。
 
ただ大の里の圧勝ぶりに序盤で優勝は大の里の空気が強かった。今後、大の里の立ち合いからの圧力をどう対応するかが課題だろう。逆に大の里からみると組まれた際にどう出るか。現状体を浴びせて勝つことが多く技能はない。師匠譲りのおっつけといってもさほど目立たない。体力で圧倒するだけ技能はお留守だ。
 
大の里は新入幕から5場所連続三賞だ。というよりも幕内在位のすべての場所で三賞受賞となった。空前のことで今後更新は難しいだろう。豊山が3場所連続殊勲敢闘の受賞で大関昇進も更新不可能ともいわれたが、ある意味それ以上のことである。
 
全体見ると休場が多い。延べ11人休場。十両が7人休場で勝ち越し自体9人という低水準だった。尊富士の優勝で目立たないとはいえ問題。全休も多く不戦勝で得もあまりいないが、木竜皇は2不戦勝ながら4勝と逆戻り。巡業だけのせいにしたくないがやはり休養も必要では。

 

 

木村庄之助が引退。最後の一番は豊昇龍琴櫻。庄之助は前の山のファンから高田川に入門したが、前の山は琴櫻戦の無気力相撲から大関を陥落した。そして今回の一番はその琴櫻の孫の相撲。豊昇龍が7敗ということでどこか無気力さを感じた。不思議な縁である。

 

あとはつづきに。

 

秋場所。大の里にいよいよ土。12日目若隆景戦。まさに伏兵。大の里の両手押しから突っ張りで例のように出て行ったがしのいだ若隆景。右を固めた体勢から両差し果たすや逆襲で一気に出た。大の里も体勢崩れながら突き落としにいき、傾いて土俵詰まるも踏み止まって立て直す。

 

大の里、体を浴びせるように棒立ちながら寄り立てるもこらえ、左に打っ棄って体入れ替えて黒房でひと押し。大の里遂に敗れた。若隆景としては大の里の特徴を全て見抜いていたように思える。待ってましたとばかりの会心の勝利だった。

大の里も好調だけによく対応し、11秒ほどの相撲ながら攻防の展開が激しかった。

 

 

13日目。大の里琴櫻。
当たって右四つ。琴櫻が上手ひきつけ、上手投げを打ったが大の里は泳ぎながらも残し、土俵中央に。逆に大の里が一気に東土俵に走るも、琴櫻は土俵際で体を入れ替えてながら突き落とし。

右のぞかせて出た大の里、突き落とした琴櫻。土俵もつれて物言いがつく。大の里の方が先に土俵を飛び出していたように見えたが同体。2番目は右のぞかせた大の里が右に逃れる琴櫻を一層厳しく攻め完勝した。

 

例の翔猿戦以降物言いが増えた。今日の判定も琴櫻翔猿戦での怪しい判定の裏返しか。琴櫻有利に見えたがトントンで取り直しではないか。琴櫻はパッとしない、優勝どころかこれで2桁もならずだ。 腰痛という話もあるが土俵際でのもつれが多い。上半身に加え下半身のもろさが目立ってきた。

 

豊昇龍も日々落ち着かない土俵。好調の霧島を屠った。これで2大関ともやっとの7勝。豊は前半から乱調ながら何とかここまで、一方の琴は協会のアシストが見え隠れながら自滅が増えた。上位も不調という中で星を潰しあい、優勝争いから圏外というのはいけない。どちらか負け越しではないか。むしろそうなるべき。

 

大の里の大関は確定。さらに高安、霧島と敗れ、これにより明日勝てば優勝。

 

そんな中貴景勝が引退した。2連敗からの休場で予想されていたが退いた。28歳とまだまだながら体重増加に伴う不調が多く、首のケガにも悩まされた。

 

175センチ、170キロほどの体で大関30場所、優勝4回は立派だろう。とくに在位中に栃ノ心高安豪栄道と陥落、引退、さらに以後の後輩大関が4人連続陥落。大関そのものの在り方まで議論の中、2020春、2023初~夏に唯一の大関となるなど、5年間連続して大関にあったことだけでも称賛されるべきだ。目まぐるしい勢力争いの中常に大関として土俵に上がった。

 

相撲は立ち合いの当たり、ぶちかましに懸けるもので短躯より長くなると厳しかった。腕の短さから小さな突きを繰り出し、逆転など相手に隙を見せなかったのが特徴。全盛期は2020~21年頃で、この11場所に13勝1回、12勝を3回記録した。しかしその時期も休場は多い。今場所厳しいとみるとすぐに休場するスタイルが長く持った証ともいえる。

 

2022年ごろからは皆勤での1桁も増え、明らかに衰退期に入った。とはいえ優勝2回、同点1回があるのは責任感の証といえる。節目節目に貴景勝の姿があった。一時190キロ近くまで増量し、その後の減量と合わせ押しの威力が落ち、いなしやもろ差しの相撲に新境地を見出そうという動きもあった。押し相撲は押せなくなると終わりというあたり難しい。

 

白鵬の対戦力士の中で最年少ながら白鵬から3年弱で現役を追えることになった。湊川を襲名。これにより貴乃花の弟子は貴健斗一人になるようだ。

 

大の里が大関をつかみ取った一方で、2020年代初めの土俵に中心として在った大関がひっそりと土俵を去る。また新たな時へ進むのだ。

 

十両は尊富士が圧倒している。おっつけなど四つでの技術が格段に上である。幕内復帰で再度優勝争いすることは予想できる。