シリーズ:先人たちの書ー番田雄太 | 書家 龍和 公式ブログ 

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臨在主義・臨在アートを提唱する 
書家・龍和のオフィシャルブログです。

 

分身ロボット「OriHime」開発者の吉藤オリィ氏は
学生時代、奈良のキャンプ場(奈良県立野外活動センター)で
共に補助員(学生ボランティア)をしていた同郷の仲間だ。
オリィ氏の父上は、当時そちらに勤務しておられた。
「キャンプファイアの神」と周りに尊敬され、
人としての在り方をその背中を通して学ばせていただいた、
私にとってもかけがえのない恩師である。
吉藤親子にはひとかたならぬお世話になった。
当時を思い返せば、感謝してもしきれない。

 

 

その吉藤オリィ氏が「OriHime」開発者として
共に歩んできたのが、番田雄太氏である。
雄太氏は幼少のころ、交通事故に遭遇、
頚椎を損傷し人工呼吸器を装着。
首から下が麻痺状態となった。
ある時、養護学校の高井縁教諭との出逢いが
書の道に進む大きな契機となった。
高井教諭がそばで紙を構え、

雄太氏は歯と舌と唇を使って筆を持ち、書を書いた。


作品は全国のさまざまな舞台で数々の賞を受賞。
10歳のころから顎を使ってPCを操作、
自らWEBにアクセスし生きる上で必要な
コミュニケーション手段を習得。
自らと同じ境遇の人たちの力になりたいとの思いで、
2015年オリィ研究所に入社、各種会議や講演会には、
「OriHime」パイロットとして参加、
オリィ秘書兼広報として職務に従事してこられた。
2017年秋、28歳の若さで永眠。

 

 

 

私と番田雄太氏とは面識はない。
ある時、SNSで彼の書が投稿されているのを偶然見て、
素晴らしい書だと思い、機会が許せば一度会って
書の話などに花を咲かせてみたいと思っていた。

ところが、ご縁とは不思議なものである。

先日、雄太氏の父上からメッセージをいただき、
「書家として、雄太の書にコメントしてもらえないか」
とのお話をいただき、即日雄太氏の書のカレンダーを送っていただいた。
大変光栄なお話だが、私のような一書家が
人様の書にコメントするのも大変僭越なことであると思った。
それでも、少しでもお役に立てたらと思い、
お引き受けすることにした。

 

 

さて、書についてである。

番田雄太の書を初めて見た時、頭をガツンと叩かれたような感覚だった。
今までに、こんなにも心を動かされる書を観たことがあったか。

古くから、「書は人なり」といわれる。
別に書に限らず、音楽も人であるし、政治も経済も世のあらゆるものが「人」である。
にもかかわらず、「書は人なり」と事あるごとに語られてきたのは、

それだけ書というものが、書き手と近い距離で書き手の内面をリアルに表現するものだからだろう。

 

 

そう、書は書き手の精神を語る。
番田雄太の書もまさしくそうだ。

書の名人、王義之の書も、空海の書も、確かに素晴らしい。
それは単に技巧的な素晴らしさだけで語り得るものではなく、

書き手の”人間”が宿っているものだからだといえる。

番田雄太の書には、”番田雄太”という”人間”が宿っている。
彼の人生、彼の生きざまがそのまま詰まっているのだ。

誰かの書を手本にして書くことを、「臨書」という。
私も番田雄太の書を手本にして臨書してみた。

臨書はただ形をまねるのではない。
書き手の「意」をくみ取って書くことを「意臨」といい、
その筆致から、その書き手の想いを読み解く。
なぜここは線が太いのかとか、かすれているのかとか、
そうして書き手の想いを追体験し、自らのこころに取りこんでいく。
私は臨書を通して、番田雄太と溶け合ってみたいと思った。

 

 

そして感じた。

 

 

彼の書は、一点の曇りもなく、未来への希望に満ちている。
彼の書くどっしりとした線からは力がみなぎり、
美しい余白からは、陽光のように輝く光が観える。
丁寧に紙に書かれたその世界は、純粋な魂の発露である。
これはもう、アートだ。

 

 

 

番田雄太の肉体はもうこの世には存在しない。
本当に惜しい。
私も子を持つ親だ。ご両親の心を思えば察するに余りある。
彼の笑顔が一体どれだけ人の心をあたため、照らし、
支えてきたのだろうかと思うと、慟哭を伴わざるをえない。

 

 

しかし。

 

 

番田雄太の肉体は、たとえこの世からなくなったとしても、
彼の精神は、彼のこころは、彼が切り拓こうとした未来への想いは、
彼のこの書に確かに宿っている。

 

 

番田雄太は生きている。

 

 

彼の書はカレンダーになった。
私にとっては、毎日眺めるカレンダーとしては、
「強すぎる」とさえ思う。

生きていく上でさまざまなことがあるが、
そのたび開いて姿勢を正す、
人生の「座右の書」として、宝としたい。

 

 

平成30年冬至
書家 山村龍和

 

 

 

追記

番田雄太さんの書のカレンダーは、1部1500-(送料別途)
売上の一部は、岩手県内の重度心身障がい者の団体に贈られます。
購入されたい方は、
番田光雄さん(雄太さんのお父様)のFacebookメッセンジャーまで
直接お問い合わせください。
https://www.facebook.com/profile.php?id=100024688042491

 

 

オリイ研究所WEBサイト
http://orylab.com/
吉藤オリィ

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