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いつからなのだろう。私の手には手袋が付けられている。
この手袋、私としては初めて見る物だ。
もちろん、自分で付けたわけではない。
この手袋は指が全くなく、自分で外せない造りになっている。
寝るときも含めて、ずっと付けられている。
所謂、拘束具だ。
以前読んだマンガ『ブラックジャックによろしく』に出てくる、精神科の話に出てきそうだ。
いつからこんな手袋になったのか、覚えていない。
入院当初から付けられていたわけではないと思う。
思い出そうとしても、全然思い出せない。
私としては、もし火事が起きたらどうなるのかということが気になる。
きっと、身じろぎもできず焼け死ぬのだろう。
若干恐ろしいが、拘束されている状態とあまり変わらないな。
ある日、医師でも看護師でもない、青い服装を着た女性が、私の手袋を外した。
女性は、私の首回りや指をマッサージしてくれた。
その時になって初めて気付いた。
自分の指がまったく動かせない。
ピクリとも動かない。
なんじゃこりゃ。
確かに、ここまで動いていなければ、多少身体を動かしにくくなることだってあるだろう。
しかし、その次元ではない。指がピクリとも動かせない。
魔法で拘束されているように感じる。
生命としてのどん底レベルになった気分だ。
女性は、マッサージが終わると、手袋を戻してしまう。
ただ、女性のマッサージを何日か受けていると、ほんの少しだけ指が動くようになってきた。
数ミリ単位で、まずは人差し指、数日後は中指と、ゆっくりとしたスピードで進んでいった。
何日経ったのか、ようやく人差し指を、完全に折り曲げられるようになった。
ちょっとした感動だ。
毎朝、医師が私のベッドにやって来て、私の頭を触りながら何かを確認している。
頭は布で覆い被されているが、どうもそれを外して傷の状態を確認しているようだ。
ある日、医師は突然私の頭を押さえ付けた。
意味も分からないまま、唐突に金属音と強い痛みに襲われる。
これを何日も何日も繰り返されていると、ようやく分かってきた。
これは抜糸なのではないだろうか。
もう少し説明してくれよ。
特に位置が頭部であるため、恐怖感は生半可ではない。
例えば手足なら極力無視して我慢できるが、頭部は自分の意識のど真ん中だ。
脳という、究極に大切な器官が詰まっている。
耳も近いため、恐怖がダイレクトに押し寄せてくる。
この治療を受けている間、今までの痛みが最大なのかは分からない。
この後、いよいよ本番の痛みがあるのかもしれない。
それに、医師は時々間違ったような声を出す。
その間違いは、どの程度の影響があるのだろう。
医師は、こう言った。
「まだまだ、たくさんありますよ。日数重ねて、頑張りましょう」
言った通り、確かに回数は多かった。
数日、この治療が行われ、こう言った。
「まだ半分も終わっていませんけど、頑張りましょう。あと5回くらいかな」
ところがそれから2回目、医師はこう言った。
「これで終わりです。お疲れさまでした」
医師は明るい声で言ったが、これはきっと、私の治療を諦めたということなのではないだろうか。
私はとうとう、医師に話をしようと思った。
聞きたいのは、私の現状だ。
病気は完治したのか。
そもそも、何が起きているのか一切分からない。
少しでもいいから、教えてほしい。
そう思っていると、ふと恐怖感が湧いてきた。
私の口は、機能するのだろうか。
ここに来てから、まだ一度も自分の口で話していないと思う。
まさかまさか、声が出ないなんて、『北斗の拳』のリンじゃないんだから。
いや、しかし、今の私の喉には何かが刺さっているようだ。
もしかすると、これによって声が出ないのかもしれない。
いざ、声を出そうとしてみた。
「……」
なんと、声がまったくでない。
こんなこと、在り得るのか。
いや、夢でしか有り得ない。
なんていうブラックジョークだ。
私を目覚めさせてくれ。
現在からの振り返り
良太です。
私に付けられていた手袋は、『ミトン』という医療用の道具です。
医療用というか、介護でよく使われるようです。
理由としては、もう自我が底辺に落ちちゃって、点滴を抜いてしまったり、身体を搔きむしったりしてしまうので、それを防ぐために身体の拘束具として、このミトンが使用されます。
私の指や肩をマッサージしてくれていたのは、リハビリ士さんですね。
この時の私は、入院してリハビリを受けるという当たり前の行為がまったく理解していませんでした。
思い返せば、私が小学6年生のときに腕を折って、退院後何度かホットパックっていう、腕を温めるものを使ってました。
それがリハビリでしたね。
自分でもやったことあるのに、この時はそれを認知できなかったってことですね。
今回抜糸をしてくれたお医者さんは、私の主治医です。
まぁ、抜糸は、手術で身体を切ったからなんですけど、この時の私は手術と抜糸のつながりがまったく把握できてませんでした。
ただただ意味の分からない苦痛を与えられている気分でしたね。
声が出ないのは、気管切開をしたからですね。
口で説明するのは難しいので、医療機器メーカーの「せんこう医科工業様」のホームページから図をお借りしました。
気管切開はこの図のように、喉に穴をあけて、そこにチューブを通して気道を確保じします。
その場合、声帯を通らなくなるので、声は出なくなります。
まぁ、この時まで、自分で話そうという意思がなかったってことでもありますね。
次回は、声が出せるようになった話です。
衝撃の事実が発覚します。
ぜひ見てください。




