何故か、妻や両親が現れた。
いつからなのか妻と両親が私に会いに来る。
なんだ、そんなに時代は変わっていないのか。
悪の組織は何故ここに通してくれるのだろう?
家族は私を見て、少し可哀想な顔をする。
きっと悪の秘密結社による手術で、私の容姿は醜く醜悪な造型になっているのだろう。
ハッキリ汚い顔だと言ってくれて構わない。
その方が楽だ。
今日は妻がソファーに座り、私の頭を膝に乗せてくれている。
こんなふれあい、結婚してから一度もない。
私はお気に入りの『ASIAN KUNG-FU GENERATION』の曲をイヤフォンで流し始めた。
心地良い。
若干残念なのは、流れている曲が古いこと。
初期の曲だけでなく、最近の曲も聴きたい。
だがどうしてなのか、曲を変えることができなかった。
私の母は、「よかったね。もう先生の言う通りしていれば大丈夫だからね」と優しい声で言った。
「いや、違うんだ。そうじゃないんだ。
この建物の組織は、私を誰か…、おそらく悪の組織のリーダー格だと勘違いしている。
もし間違いだとバレたら、オレだけじゃなく母ちゃんや父ちゃん、息子たちもみんな殺されてしまう。
みんな、事態が分かっているのか?
母ちゃんは頭が悪いから、いつもみたいに分かっていないんだ。
組織にはしっかり嘘を繕ってくれ!」
必死に思いを伝えた。
ん?
私は今、それを口で言えたのだろうか?
今一つ判然としない。
何故なのだろう。
悪の組織によるマインドコントロールだろうか?
マインドコントロールといえば、奇妙な出来事もある。
左目が異様に見えづらい。
初めは何かが目に被さっているのかと思っていたが、何度瞬きをしても全然変わらない。
いや、今一番気になるのは、息子たちのことだ。
息子たちがこの部屋には見当たらない。
無事なのだろうか。
妻も両親も、息子たちの話をしない。
私のせいで、息子たちが姿を見せられなくなっているとしたら、とんでもないことだ。
仮に、もし仮に、死んでいたら、私は生きていたくない。
もし私が死なせてしまったのであれば、私はすぐに消えたい。
加えて、別の観点で心配なことがある。
もしかすると、私は被害者ではなく、加害者なのかもしれない。
意図的に人を傷つけようという意思はないが、これまでの私は、夜中に山に行って星空を撮ったり、会社の人達と朝方まで飲み明かしたりと、あまり健全な人間ではない。
私は自分が何をしていたのかまったく覚えていないが、それによって今回人を傷つけてしまった可能性は、否定できない。
聞くことも出来ず、悶々とするしかない。
そんな中、何故か私の伯母が現れた。
いや、伯母に似ているだけなのかもしれない。
伯母が住んでいるのは福岡だ。
私は大阪に住んでいる。
じゃあ、ここは福岡か?
私は何故福岡にいるのだろう。
それとも、この女性はやはり伯母ではないのではないだろうか。
伯母らしき人は、涙を流している。何故泣いているのだろう。
そういえば、この伯母の夫、つまり私と血の繋がった伯父は、最近亡くなった。
その伯父は強面な風貌だったし、自営業でしっかりしていそうだったから、私は子どもの頃は苦手に思っていた。
ところが、小学校高学年の頃、伯父はキャッチボールをしようと言った。
キャッチボールは、私にとってはさらに苦手だ。
小学校に入った頃、実の父は私の教育方針として、強制的にキャッチボールをしていた。
いや、させられていた。
いつも「腕の使い方が違う!」とか「腰をもっと下げろ!」とか頻繁に指摘されていて、さらに委縮していた。
ところが、伯父は私に何も指摘しなかった。
キャッチボールが面白いように思った。
その伯父を、今でも覚えている。
まぁ、私の父ではないのだから、元々怒鳴ったりしないのだろうが、なんだか成長したような気持ちがして楽しかった。
つまり、伯父との良い思い出だ。
ある日、母がこう言った。
「もう来られなくなるけど、終わったらまた会えるからね」
何を言っているのか、よく分からない。
さらに、その翌日にまた会えたから、何を言いたかったのかさっぱり分からない。
両親はとうとう認知症になってしまったのだろうか。
しかし、その翌日からは来なくなった。
今後は、私一人で戦わなければならない。
でも、戦うなんて芸当、到底できない。
数日、悶々とした思いを抱えていた。
ただ、しばらくすると、気分がマシになってきた。
寂しい気持ちもあったが、この人体実験はほとんどのケースであまり痛くない。
時々、頭部や口に非常に強い痛みを与えられることもあり、何をされているのかさっぱり分からなくて不安だが、映画でありがちな、四六時中苦痛を与える人体実験ではなさそうだ。
まぁ、それでも信用は禁物だが。
現在からの振り返り
私は当時まったく気付きませんでしたが、福岡に住んでいる二つ下の弟家族や、六つ下の妹が、大阪の病院まで来てくれたそうです。
妹は「きっとよくなるから」って言って、妻に私の動画を撮るように依頼してくれたそうです。
私は倒れて一年以上経って、その動画を見ました。
妹は一人目の子供を産んで一年ちょっとくらいだったので、ホントに申し訳ないですけど、それこそ有難いと感謝してます。
当時の私が感じていた風景とは、全然違って、びっくりしました。
ちょっとショッキングな動画ですが、これが当時の私です。
ソファーなんてどこにもありません。
腕や鼻にチューブが刺さってて、ベッドから立ち上がることもできません。
認識の齟齬というレベルではないですね。まったく違う世界を見ていたってことです。
しかし、私を現実に引き戻したASIAN KUNG-FU GENERATION、すごいですね。
妻はアジカン以外の音楽も聴かされてくれたみたいなんですけど、そっちは全然意識にありません。
左目には異物がついていたわけではなくって、脳の異常によって、左目の視野が欠陥してて、中心が見えなくなったんです。
“見えづらい”のではなく、中心はまったく見えません。
外側のみ見えますけど、あんまり役に立たないですね。
伯母は本当にお見舞いに来てくれていたそうです。
伯母が涙を流してくれて、思いが揺さぶられたんだと思います。
実際は他の伯父・伯母もお見舞いに来てくれていたそうなんですけど、ホントごめんなさい、覚えてないです。
でも、遠い所からお見舞いに来てくれて、本当にありがとうございます。
みんなが来なくなった理由は、新型コロナですね。
もちろん、私が新型コロナに感染したんじゃなくて、世界で新型コロナの影響が凄まじすぎて、入院している患者へのお見舞いも禁止になったんです。
私の両親は、ちょっと無理を言って少しだけ延長させてもらったみたいです。
では、また次回をお楽しみに!




