今回はプロの実戦を題材に、対穴熊の寄せを学びましょう。

有名な一局ですが、2008年の順位戦、広瀬五段 vs 村山五段を題材に選んでみました。

 

 

本局は相穴熊戦で終盤までずっと均衡を保っていましたが、第1図の△5七歩が僅かに緩手でした。

 

第1図で先手は自玉がゼット(絶対詰まない)なので、詰めろの連続で必至をかければ先手の勝ちという局面。

ただし△4八金と張り付かれているので、詰めろが続かない場合は自玉との兼ね合いが重要になってきます。

 

 

 

それでは、第1図から寄せ切る手順をぜひ考えてみてください。

初手は角を切る一手ですが、そのあと3手目に絶妙手があります。

 

 

 

 

【解答】

 

第1図以下の指し手

▲3一角成 △同 銀(第2図)

まずは角を切るしかありませんが、この局面での次の一手が問題です。

 

平凡にA▲3二歩と攻めるのは詰めろにならず、△4七角(下図)と打たれてしまいます。

以下▲3三角△2二銀打▲3一歩成でも△2九角成▲同玉△3七桂以下自玉が詰んでしまいます。

また、B▲6一飛やC▲5二飛は全く詰めろになっていません。

 

 

後手玉に詰めろを続けるための唯一の手段が分かりますでしょうか?

 

 

第2図以下の指し手

▲3三角!(第3図)

穴熊の急所3三に角を捨てるのが絶妙手でした。

 

 

以下、

A△2二銀打は▲同角成で、

a△同銀は▲3二金(下図)で、

以下△6四角(詰めろ逃れの詰めろ)でも、

▲2一金△同玉▲4一飛△3一銀▲3二銀△同玉▲4三金△2二玉▲3一飛成△同角▲3二金△1一玉▲3三桂まで、

詰めろを解除しながら必至をかけて先手勝ちです。

 

 

b△同玉は▲4三金(下図)で、

以下△6四角(詰めろ逃れの詰めろ)でも、

▲5二飛△3二飛▲同金△同銀▲3一銀△同角▲4三金以下先手勝ちです。

 

 

よって、

第3図ではB△3三同桂と取ることなります。

 

 

 

第3図以下の指し手

△3三同桂 ▲3二歩(第4図)

角を捨ててでも、穴熊の桂を跳ねさせて2一にスペースを作ったことが大きいです。

 

第4図は▲2一金△同玉▲3一歩成△同玉▲4一金△同玉▲5一飛△3二玉▲4二金△同玉▲5二飛成△3一玉▲2二銀までの詰めろ。

 

A△6四角(詰めろ逃れの詰めろ)と受けても▲2一金△同玉▲3一歩成△同角▲4一金(下図)で、

以下

a△6四角は▲3一金打△同角▲同金△同玉▲5一飛△4一角▲5二とで必至。

b△6四角打は▲3一金△同角▲5一飛以下、詰めろを解除しながら必至をかける順があるので先手勝ちです。

 

 

よって、

第4図ではB△3二同銀と取ることになります。

 

 

 

第4図以下の指し手

△3二同銀 ▲4二金(第5図)

ここまで▲3三角と▲3二歩のパンチが入ったことで、いよいよ寄り形が見えてきました。

 

第5図は▲3一飛△2一銀打▲2二金△同玉▲3二飛成△同銀▲3一銀△1一玉▲2二金までの詰めろ。

 

後手は△2一銀打と受けるしかありません。

 

 

 

第5図以下の指し手

△2一銀打 ▲5一飛(第6図)

 

第5図で、後手の受け方はA△4一角とB△2二飛の2通りが考えられます。

実戦はB△2二飛でしたが、A△4一角(下図)と受けられたときをしっかり読んでおきましょう。

以下、

a▲同金や

b▲同飛成△同銀▲同金

だと詰めろにならないので△4七角で先手の負けです。

 

こういうところは

c▲3二金が寄せの正しい手で、

以下△同銀▲3一金△2二金▲3二金△同金(下図)と進めます。

ここも

ア▲4一飛成と角を取ってしまうと△3一金打で攻めが切れて先手の負けになります。

イ▲4三銀が寄せの正しい手で、

以下△2一飛▲4一飛成△同飛▲3二銀成(下図)まで進めば先手の勝ちは揺るぎません。

 

 

実戦は第6図でB△2二飛と受けました。

 

 

第6図以下の指し手

△2二飛 ▲3一金打(第7図)

後手は飛車を自陣の受けに投入しましたが、

こうなると自玉に有効な詰めろがかからないことを見込んで▲3一金打と俗手で迫るのが好判断でした。

この手は詰めろになっていませんが、次に▲3二金寄の必至を狙っています。

 

以下、

A△6四角には構わず▲3二金寄(下図)で、

以下△2八角成▲同玉に

a△3九銀は▲3七玉△1五角▲2六歩で詰まず先手勝ち。

b△6四角は▲3七桂(下図)で、

以下△3一角には▲2二金以下の詰みがあるので先手勝ちです。

 

 

B△3八金にも構わず▲3二金寄で、以下△2八金▲同玉△6四角に▲3七金(下図)と受けて先手勝ちです。

以下△3一角なら▲2二金以下、即詰みもしくは必至がかかります。

 

 

 

実戦は第7図で△5四角と受けました。

 

 

第7図以下の指し手

△5四角 ▲3二金引(第8図)

△5四角は▲3二金寄なら△同角で頑張る狙いですが、▲3二金引が良い手でした。

 

以下、

A△同角には▲3一銀(下図)でほぼ必至。

 

 

実戦はB△同飛と応じました。

 

 

第8図以下の指し手

△3二同飛 ▲同 金 △同 角(第9図)

ここまで来たら5手必至です。広瀬五段の最後の指し手を当ててみてください。

 

 

第9図以下の指し手

▲2二金 △同 玉 ▲3一銀 △1一玉

▲2二飛(投了図) まで広瀬五段の勝ち

長い道のりでしたが、ついに完全必至がかかりました。

 

以下、

A△同銀は▲同銀成△同玉▲1一銀まで。

B△4三角は▲2一飛成△同玉▲4二銀成△2二玉▲3一飛成まで。

それ以外の手では▲2一飛成△同玉(角)▲2二銀の詰みが受かりません。

 

 

 

今回はプロの実戦を題材に穴熊の寄せを見ていきました。

かなりレベルが高いので実戦でこの手順を指せるとは思いませんが、棋譜を並べるだけでも強くなれそうです。

 

 

 

おしまい。