今回はプロの実戦を例にして、必至の練習をしていきましょう。

 

題材は2020年の王位戦七番勝負第1局、▲藤井聡太七段 vs △木村一基王位です。

 

 

第1図は最終盤。

次に△4八馬が間に合うと後手勝ちなので、先手は詰めろの連続で寄せ切りたいところです。

どのように寄せるのがよいでしょうか?

 

 

第1図以下の指し手

▲2三歩△1三玉▲3二と(第2図)

初手は▲2三歩の一手。

対して△同玉は▲3二角以下詰み、△1二玉は▲1五歩でほぼ必至なので△1三玉です。

以下▲2二角は△2三玉▲1一角成△1二金で続きませんが、▲3二と(第2図)が好手です。

 

 

さて第2図以下、

△2三玉は▲2二金△1三玉▲2一金で受けが難しく、△1二金も▲2二金が詰めろとなって寄り筋です。

後手は受けが難しくなったようですが、△3一金という受けがあります。

 

 

 

第2図以下の指し手

△3一金(第3図)

これが妙手で、▲同とや▲2二金は詰めろにならないので△4八馬で後手勝ちです。

一手争いの終盤ならではの妙手と言えるでしょう。

 

▲同とや▲2二金が利かないとなると、あとは▲2二角しかありません。

 

 

第3図以下の指し手

▲2二角△同金▲同歩成(第4図)

 

第4図で△1二銀や△2三銀は▲同と以下の詰み。

受けがなくなったように見えますが、唯一の受けの妙手があります。分かりますか?

 

 

 

第4図以下の指し手

△3一桂(第5図)

これが妙手で、

A▲同と直は△2二玉▲3二金△2三玉▲1五桂△同歩▲同歩△2五歩で詰めろが続きません。

B▲同と右は詰めろになっていないので、△4八馬で後手勝ちです。

C▲3三金も△同桂▲同と△3二金(参考図)で凌がれます。

D▲1一とも△2四歩で、以下▲1二と△2四玉(参考図)のあと詰めろが続かないので受けに回って激戦です。

 

 

では、第5図ではどのように攻めればよいでしょうか?

 

 

 

第5図以下の指し手

▲1五歩△同歩▲2六金(第6図)

「端玉には端歩」の格言通りの▲1五歩が良い手です。

以下、△1五同歩にA▲同香は△1四歩▲1二金△同香▲同と△同玉▲1四香△2三玉で失敗しています。

B▲2六金(第6図)が良い手です。

 

 

第6図は▲1四金△同玉▲1五香の詰めろ。

ほとんど寄り形に見えますが、

後手からの△2八飛が攻防手(詰めろ逃れ)にならないように攻めるという制約があるので意外と難しいです。

 

第6図以下、後手の受け方として△2三桂(実戦の進行)、△1四銀(AI最善手)があるので順に検討していきましょう。

 

(他に△1七桂があるが、▲同香△同馬▲1五金△1四銀▲2五桂で後述する第19図の変化と手順前後で合流する)

 

 

 

 

 

第6図以下の指し手①

△2三桂▲1五香(第7図)

まずは実戦の進行である△2三桂から見ていきましょう。これには▲1五香(第7図)と走ります。

以下、△1五同桂は▲同金で必至です。

したがって△1四歩ですが、以下駒を取りながら詰めろが続きます。

 

 

第7図以下の指し手

△1四歩▲1一と△1五歩▲1二と△1四玉▲2一と左(第8図)

駒を取りながら詰めろが続くと、徐々に受けるのが難しくなります。

第8図以下、△1三香の受けにも▲同と△同玉▲2五桂△同歩▲同金で受けがありません。

 

よって△2五歩と突きますが、次の3手で必至となります。

 

 

第8図以下の指し手

▲1三と△2四玉▲3七桂(第9図)

第8図で単に▲3七桂だと△2八飛が詰めろ逃れになるのでやっかいです。

▲3七桂の前に▲1三とを利かすのが大事なポイントで、

△同玉なら▲2五金△2四飛▲1四歩△同飛▲1一と以下寄るので△2五玉ですが、

それから▲3七桂(第9図)と打てば完全な必至です。

以下、

△2六歩でも△2八飛でも▲1四金△3三玉▲4五桂以下の詰みがあり、後手に受けはありません。

 

 

※実戦は第9図以下△4八馬▲2五金で後手の木村王位が投了。

 

 

 

 

第6図以下の指し手②

△1四銀▲1五金(第10図)

次に、第6図から△1四銀の変化を見ていきましょう。

 

以下▲1五香だと△1八飛の攻防手(詰めろ逃れ)が生じ、以下▲1四香△同玉で上部に来られてやっかいです。

したがって、▲1五金(第10図)が良い手になります。

 

第10図では△1五同銀、△1七歩、△1七桂の受けがあるので順に検討していきましょう。

 

 

 

第10図以下の指し手ア

△1五同銀▲同香△1四歩(第11図)

△1五同銀だと▲同香△1四歩(第11図)まで必然です。

第11図以下▲2一と直も悪くありませんが、△1二金と受けられたときに、

a▲2二金は△同金▲同と引が詰めろにならないのでb▲2六桂とするしかなく、△1八飛の攻防手が生じて一気に寄せ切れません。

 

では、第11図で最短の寄せはなんでしょうか?3手一組の好手順があります。

 

 

 

第11図以下の指し手

▲1二と△同玉▲2二銀(第12図)

▲1二とが好手です。

以下、△同香は▲2二銀以下詰みなので△同玉ですが、▲2二銀(第12図)と縛ります。

以下、

△2五歩には▲2四金、

△1五歩には▲1四金△2三飛▲1一銀成△同玉▲2三金△同桂▲1二歩△同玉▲1四香△1三桂▲2二飛△1一玉▲2三飛成、

△2三飛には▲1三歩△同桂▲2一金まで必至です。

 

 

一見受けなしに見えますが、△5五角という受けがあってもう少し長くなります。

 

 

 

第12図以下の指し手

△5五角▲4四歩(第13図)

△5五角には▲4四歩で角の利きを遮断するしかありませんが、先手は歩がなくなったので寄せの条件が厳しくなっています。

第13図以下、

△2三金は▲1四香△同金▲1一銀成△1三玉▲1二金△2三玉▲2二金△1三玉▲1二成銀までの詰みです。

そこで△1五歩、△2三飛の受けが有力なので、寄せ切れるかどうか最後まで検討しましょう。

 

 

第13図以下の指し手あ

△1五歩▲1四金△2三飛▲1一銀成

△同玉▲2三金△同桂▲1四香(第14図)

第14図以下、

A△1三香なら▲同香不成△同桂▲1二香△同玉▲2二飛△1一玉▲2三飛成で必至です。

そこでB△1三桂になりますが、以下の手順で寄ります。

 

 

第14図以下の指し手

△1三桂打▲同香不成△同桂▲4二飛

△1二金▲7二飛成△5一飛▲3三桂(第15図)

▲4二飛~▲7二飛成~▲3三桂が一番分かりやすい寄せで、

これが▲2一と△同飛▲同桂成△同玉▲4一飛△3一桂▲同飛成△同玉▲4二竜以下の詰めろ。

△2二金や△2二銀と受ければ詰みはないですが、▲4三歩成で後手は投了するしかありません。

 

以上より第13図から△1五歩の変化は寄せ切れることが分かりました。

 

 

第13図以下の指し手い

△2三飛▲1四香△1三歩▲2一銀不成

△同飛▲同と△2三玉▲2六桂(第16図)

第13飛から△2三飛も注意すべき手で、▲2一銀不成は△1三玉で捕まりません。

▲1四香△1三歩を入れて▲2一銀不成が好手で、△同飛▲同と△2三玉に▲2六桂と縛って寄り形になります。

 

 

第16図以下、△2五歩は▲2二飛以下の詰み、△3三銀と受けても次の手順で必至がかかります。

 

 

第16図以下の指し手

△3三銀▲3一と△2五歩▲2一飛

△2二桂▲1一飛成△2四玉▲2二竜

△同銀▲1六桂△1三玉▲2四金

△1二玉▲3二と(第17図)

 

以上より第13図から△2三飛の変化も寄せ切れることが分かりました。

 

ここまでで、第10図から△1四銀の変化は読み切れました。

これを読むだけでも結構大変ですが、他に△1七歩と△1七桂の変化を読んでおかなくてはいけません。

 

 

 

第10図からの指し手イ

△1七歩▲1二金打△同香▲同と

△2三玉▲2二と右△1三玉▲1六香(第18図)

第10図で△1七歩には、▲1二金打から攻めていくしかありません。

以下△同香▲同とに△同玉は▲1四金以下寄るので△2三玉ですが、▲2二と右~▲1六香(第18図)で決まります。

 

第18図以下△1五銀▲同香に、

A△1四桂は▲2一と直△2五歩▲1六桂で必至、

B△1四金は▲2三銀が好手で、a△1五金は▲1四歩以下、b△2三同桂は▲1二と△同玉▲1四香以下ピッタリ詰みなので受けがありません。

 

※△1四歩と打てれば受かりますが、二歩なので打てません。

 

 

 

第10図からの指し手ウ

△1七桂▲同香△同馬▲2五桂

△同銀▲1一と(第19図)

最後に第10図から△1七桂の変化です。

△1七桂に▲1二金打は△同香▲同と△2三玉▲2二と右△1三玉▲1六香△1五銀▲同香に△1四歩と受けられ、以下▲2一と直△2五歩▲1六桂△1五歩で失敗しています。

そこで、△1七桂には▲同香△同馬▲2五桂と攻めるのが好手です。

以下△同歩は▲2四金打まで1手詰なので△同桂ですが、▲1一と(第19図)が厳しい詰めろになります。

 

第19図は受けるなら△2三角の一手ですが、次の手順が一例で寄ります。

 

 

第19図以下の指し手

△2三角▲1二金△同角▲同と

△同玉▲2四金△2三金▲1三歩

△同金▲1五香△1四歩▲1一角

△2三飛▲同金△同金▲2四飛

△1三玉▲2五飛(第20図)

後手の頑強な粘りにも、最後までしっかりと寄せ切りましょう。

第20図以下△1五歩ぐらいですが、▲同飛△1四香▲4五飛で後手投了です。

 

 

 

今回の実戦必至はここまでです。

読み切るのはプロでも至難というレベルだと思いますが、当時の藤井七段は前々から読み切っている雰囲気でした。

 

 

本局は藤井の終盤の読みの正確さが特によく現れた、プロも驚く一局となりました。