本日のNHK杯。伊藤七段が素晴らしい研究を披露したが勝利まであと一歩のところで寄せ間違えて負けた。

 

伊藤七段ほどの終盤力をもってすれば避けられそうなミスだったが、勝ちまでの手順は視聴者への宿題ということか。

 

本局は角換わり腰掛け銀▲7九玉▲2七飛型vs△3一玉△6三銀型で後手が△6五歩と仕掛ける定跡の一変化で、

84手目まで進んだ第1図が先手良しというのが伊藤七段の研究だった。ここまでの手順はNHK杯の本編を見てほしい。

以下、▲6三角は詰めろにならないので、△6六桂▲8六玉△7三金が一例で難しいところはあるが後手勝ち。

 

先手は豊富な持ち駒を生かして詰めろの連続で寄せ切りたいところだが、どうすればよいか?

第1図を必至問題として、寄せ切る手順を考えてみてほしい。

 

 

 

 

 

 

第1図以下

▲2四桂

まずは歩頭桂から入る。

この手は▲3二桂成△同玉▲4一銀△同玉▲5二金△3一玉▲3二銀△同玉▲4一角△2二玉▲2三角成△同玉▲2四香以下の詰めろ。

これに△同銀は▲同歩が詰めろ(4二銀と放り込む筋で詰む)になるので後手は△同歩の一手だ。

 

 

▲第2図以下

△2四同歩

以下▲同歩は詰めろにならないので△8四銀と縛って後手勝ち。先手はいかにして詰めろを続けるか?

 

 

第3図以下

▲4一銀

捨て腹銀が手筋。

後手は△4二金打としても▲3二銀成△同金▲4一金で同じことなので、△同玉と取る。

 

 

第4図以下

△4一同玉

さて、第5図が本局のハイライトとなった。

ここで伊藤七段は▲5二金と打ったが悪手で、以下△3一玉▲4一角△2二金打で詰めろが続かず逆転した。

(以下▲3二角成△同金▲3一角はギリギリ詰めろだが、△5七竜~△5四角で詰めろが消えて後手勝ち)

 

 

しかし、実は第5図からの先手の勝ち筋はそれほど難しくなかった。

 

 

第5図以下の指し手

▲6三角△3一玉▲5一と

▲6三角~▲5一とで金を温存して攻めるのが好手。

▲6三角は先手玉の守りにも働いて一石二鳥なので、実戦的にも選びやすい手のはずだった。

 

この手は▲4一角成~▲3二馬~▲4一角の詰めろ。

後手は△4二金打と受けても▲4一金△2二玉▲4二金△同銀▲2四歩で攻めが早くなるので△2二玉と逃げる一手だ。

先手は満を持して▲2四歩と取り込む。

 

 

第6図以下の指し手

△2二玉▲2四歩△同銀▲同飛△2三歩

△2二歩に対して、先手は満を持して▲2四歩と取り込む。

以下△2四同銀▲同飛△2三歩(第7図)と進んだとき、飛車を逃げているようではお話にならない。

 

どう踏み込むのがよいか?

 

 

 

第7図以下の指し手

▲4一銀△3一金打▲3二銀成△同金▲4一馬

単に▲4一馬でも良いが、▲4一銀~▲3二銀成で銀を金に入れ替えてから▲4一馬のほうが変化を与えない。

後手玉はこれでピッタリ寄る。

 

 

以下、

A△2四歩は▲3二馬△同玉▲4一角△3三玉▲2三金△4四玉▲5五金△同玉▲5六金△6四玉▲6五金△7三玉▲7四金△7二玉▲7三香△6二玉▲5二角成までの詰み。

(伊藤七段はおそらくこの詰みを発見できなかった)

B△3一金打は▲2三飛成△同金▲同馬△同玉▲2四歩△同玉▲2五香△3三玉▲2四角△4四玉▲5五金△同玉▲6五金以下の詰み。

C△3三金打は▲4二金で必至。(以下△3一銀も▲3二金△同金でBの詰み筋に合流)

D△5七竜は▲6七金とはじくのが分かりやすく、以下△3一金打なら▲2三飛成△同玉▲2四歩△3三玉▲3二馬△同金▲2三金△同金▲同歩成△同玉▲2四歩以下の詰み。

 

 

 

結果的に第1図から後手玉は詰めろが続く形で、後手にも変化の余地がないので先手良しどころか勝ちの局面だった。

伊藤七段が最後まで寄せ切っていれば、後世に残る角換わりの名局のひとつとなっていただろう。