今回は、「藤井聡太の非凡な寄せ」というテーマで書いてみる。

 

優劣不明に見えた最終盤で、藤井の類まれな終盤力が発揮された対局を紹介したい。

 

 

 

 

①2022/08/24 第63期王位戦七番勝負 第4局

 ▲藤井聡太 王位 ー △豊島将之 九段

最初に紹介するのは昨年の王位戦七番勝負、対豊島将之戦。

局面は藤井優勢で、▲3九歩と受けてもよさそうなところだが、藤井は後手玉を一気に受けなしに追い込んだ。

 

 

以下、

▲3三銀成△同桂▲4一銀△同玉▲4三銀

以下、

△3八歩成▲5九玉△5八角成▲同金△4二金にも▲6一角で受けがない。

藤井が自玉の不詰みを見切って一気に寄せ切った。

 

 

 

 

 

 

②2023/01/15 第16回朝日杯将棋オープン戦 本戦トーナメント

 ▲藤井聡太 竜王 ー △増田康宏 七段

 

続いて、昨年度の朝日杯本戦トーナメント、対増田康宏戦。

藤井が大劣勢の局面から不屈の粘りで逆転に成功したものの、決着までは遠いと思われた。

ところがこの局面で、後手玉を一気に仕留める手順があった。

 

 

以下、

▲7八竜△4九玉▲7九飛△5九銀▲同飛△同玉▲3八銀

これで後手玉は受けが効かなくなった。

以下、△同金は▲同竜で必至、△5八金は▲7七角以下の詰みがある。

藤井の終盤力が遺憾なく発揮された一局となった。

 

 

 

 

 

 

③2022/06/15 第93期ヒューリック杯棋聖戦 五番勝負 第2局

 ▲永瀬拓矢 王座 ー △藤井聡太 棋聖

続いては昨年度の棋聖戦五番勝負から。

藤井が劣勢ながら巧みに粘り、永瀬の指し手に一瞬のスキが生まれた。

図は▲3一金と飛車を取った局面だが、これが緩手で、先手玉に対して鮮烈な寄せの手順があった。

 

 

以下、

△9七銀▲1一飛△1二桂▲9七桂△4八歩▲6八歩

△6七歩成▲7八銀△7七と▲同銀△6七銀▲8九角

△7八銀打▲同角△同銀成▲同玉△5六角▲6七銀

△同桂成▲同歩△6九銀▲同玉△6七角成まで後手勝ち。

退路封鎖の△9七銀から、流れるような手順で先手玉を必至に追い込んだ。

一手でも間違えたら逆転するきわどい寄せだが、最後まで正確に寄せ切った。

 

 

 

④2021/11/12 第34期竜王戦 七番勝負 第4局

 ▲豊島将之 竜王 ー △藤井聡太 三冠

続いて、藤井が自身初の竜王位を獲得した一局から。

優劣不明の終盤戦が続いたが、最後は藤井が素晴らしい寄せを披露した。

 

以下、

△5六桂▲同歩△7七歩成▲5七玉△6七と▲4六玉△3四桂

これで後手玉はピッタリ捕まっていた。

 

以下、

A.▲3六玉は△2四桂▲4五玉△4四歩▲同玉△3三銀▲同玉△3二歩▲4四玉△3三金▲4五玉△4四歩▲同銀△同金▲同玉△3三銀▲4五玉△4四歩▲5五玉△8五竜以下の詰み。

B.▲4七玉は△5八とで、

 1.▲3六玉には△2五金▲4五玉△3五金▲同玉△2四銀打以下の詰み(実戦の進行)

 2.▲5七桂には△4八と▲同玉△3六桂▲4七玉△4六歩▲3六玉△2五金▲4五玉△3五金▲同玉△2四銀▲4四玉△3三金と手順に自玉の詰めろを解除して後手勝ち。

 

 

 

 

⑤2020/7/9 第91期ヒューリック杯棋聖戦 五番勝負 第3局
 ▲藤井聡太 七段 ー △渡辺明 棋聖

ここまで藤井の寄せについて見てきたが、逆パターンも紹介しておく。

2020年度の棋聖戦第3局で、藤井の対戦相手であった渡辺が素晴らしい寄せを披露した。

 

 

 

以下、△7九銀▲8六金△7八馬▲9四歩△8六歩

△7九銀~△7八馬~△8六歩は非常に見えにくい手順だが最短の寄せだった。

 

以下、先手には有効な受けがなく、

A▲8六同金は△8八銀不成までの詰み。

B▲8六同角は△9六歩▲同玉△9八飛成で後手勝ち。

C▲8六同玉は△9八飛成で、以下▲9七金打には△8七馬▲同金△9五銀以下の詰み。

 

 

 

 

 

 

⑥2023/05/31 第81期名人戦七番勝負第5局

▲渡辺明 名人 ー △藤井聡太 竜王

最後に紹介するのは、藤井が最年少名人を獲得した一局。

藤井に攻めのターンが回った最終盤で、一気の寄せがあった。

 

 

以下、

△5九飛▲7九金打△8六桂▲同歩△8七銀まで藤井の勝ち。

後手玉はこれで完全必至。

以下、

A▲8七同銀は△7九角成▲同金△8八金まで。

B▲8七同金には△8八角成▲同金引△7九角成▲9八玉△9五香以下の詰みがある。

 

AIが示していた他の候補手よりも明快な手順であった。

 

 

 

 

今回は藤井聡太の非凡な寄せについて紹介した。おしまい。