藤井竜王の数ある名手の中で最も有名なのは、竜王戦5組ランキング戦決勝で指した「△7七同飛成」でしょう。
今回はその対局について、振り返っていきたいと思います。
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2018/6/5
竜王戦5組ランキング戦 決勝 ▲石田直裕五段 vs △藤井聡太七段。
戦型:角換わり腰掛け銀
本局の戦型は角換わり腰掛け銀で、先手の石田五段が2六歩型のまま駒組みを進めました。
上図の局面で、先手が▲4五銀と仕掛けていきます。
以下、△6三銀▲2五桂△2二銀▲3四銀△4二玉▲5六角△2四歩と進んで下図。
ここから石田五段は▲1三桂成と指して攻めの継続を図ります。以下、
△同香には▲2五歩△2四歩▲2四歩が厳しく、
△同銀には▲1五歩△同歩▲2五歩△同歩▲1二歩△同香▲2三銀成が一例で先手が若干良くなるようです。
実戦は藤井七段が△同桂と応じ、以下▲1五歩△同歩▲1四歩と進みます。
先手好調を思わせる展開ですが、このあたりまでは互角で定跡の範囲内だった模様。
ここから藤井七段が△6五歩と反撃に出て、以下▲同歩△8六歩▲同歩△7五歩▲1四歩△3三歩と進みます。
ここで▲1三歩成は、以下△3四歩▲2二と△同金で先手の指し手が難しいです。
実戦は石田五段が▲4三銀成!という強手を放ちました。
以下、△同金▲1三歩成△7六歩▲同銀△4七歩と激しい攻め合いになります。
局後インタビューでは、石田五段はこの局面で▲5八金と指すべきだったと語っています。
実戦はここから▲6四歩△同銀▲6三歩と攻め合いに出たのですが、これが結果的に藤井七段の名手を生み出しました。
この局面、
手抜いてA△4八歩成だと▲6二歩成が▲5二金以下の詰めろになり先手必勝です。
そこで6二の金を逃げる一手になりますが、B△7二金やC△6一金が有力に見えます。
D△6三同金は▲2二と△4八歩成に▲7二銀の割り打ちが気になるので、普通は考えないところです。
しかし、藤井七段の指し手はまさかの D▲6三同金! でした。
以下、実戦も▲2二と△4八歩成▲7二銀と進み、先手の狙い筋が実現します。
次に▲6三銀成がまわれば後手玉はほぼ必至。後手が大ピンチに見える局面です。
しかし、ここから藤井七段の鋭い寄せが炸裂しました。
藤井七段の読みの凄さを実感するために、ここからはかなり詳細に変化手順を書いてみたいと思います。
ここから△8六飛。
この手は詰めろで、
A▲6三銀成には△8八角▲同金△6八金▲同玉△8八飛成(下図)以下の詰みがあります。
またB▲8七銀と受けても、△7六桂(下図)で後手玉はほとんど必至になります。
以下、
a▲8六銀は△8八銀▲同金△6八金まで。
b▲7六銀は△8八銀▲同金△6八金▲同玉△8八飛成▲7八金△5八金▲6七玉△6六歩▲同玉△8四角以下の詰み。
またC▲8七金と受けるのも△7六飛▲同金△8七銀(下図)で詰めろが途切れない格好です。
そこで、先手の石田五段はD△8七歩と受けました。
銀は取られますが、しっかり受けて▲6三銀成を間に合わせようというわけです。
対して、後手の藤井竜王は△7六飛と銀を取ってきます。
この手も△7八飛成▲同玉△8八金▲同玉△7六桂以下の詰めろになっているので、先手は7七歩としっかり受けます。
さて、ここが問題の局面です。
後手はここで飛車を逃げているようでは▲6三銀成が間に合って先手勝ちです。
△5六飛と角を取る手はありますが、この瞬間詰めろになっていないので、▲6三銀成(下図)でやはり先手勝勢です。
詰めろを継続する手段がなければ、後手の負けになってしまう局面でしたが、ここで藤井七段の妙手が炸裂します。
それが△7七同飛成!でした。
飛車と歩を刺し違える手は普通成立しないものですが、この局面では
・7七歩が先手玉の守りの要で、これを取って詰めろが続く。
・飛車を渡しても先手に攻防手が生じない。
という条件が揃っており、奇跡的に成立しました。
これに対してA▲同桂には、△7六桂(下図)が厳しい詰めろになります。
この手は△6八銀▲8九玉△8八銀▲同金△同桂成▲同玉△7七銀成▲同玉△8五桂打以下の詰めろで、
▲6六飛と受けても△8八歩▲7六飛△8九金▲6八玉△5八銀▲8九飛△同歩成(下図)で後手玉は詰まず、先手玉は必至です。
実戦では△7七同飛成に対して先手の石田五段がB▲同金と応じましたが、これには△8五桂が継続手でした。
この手も詰めろで、
A▲6三銀成には△6八銀▲同玉△7七桂成▲同玉△8五桂▲7八玉△7七銀▲同桂△同桂成△同玉△8五桂(下図)以下の詰みがあります。
B▲8二飛と攻防に利かせる手がありそうですが、これも△7八歩!(下図)から詰んでいます。
以下、
a▲同金は△8八角で、
1.▲同金は△6八銀▲7八玉△6六桂▲6七玉(▲6八玉は△5八桂成以下)△5八銀▲6八玉△6七歩▲同角△同銀成▲同玉△5八角▲6八玉△6七歩▲7九玉△6八金まで。
2.▲同玉は△7六桂▲9八玉△9七銀▲同桂△8八金▲同金△同桂成▲同玉△7七銀▲7九玉△7八歩▲同角△8八金▲6九玉△7八金まで。
b▲同玉は△7七桂成▲同玉△8八銀▲7八玉△6八金▲8八玉△7六桂▲9八玉△9七銀▲同玉△8八角▲9八玉△9九角成▲9七玉△8八馬▲8六玉△7五金まで。
c▲同角は△6八銀▲同玉△5八金▲7九玉△6八銀▲8八玉△7七銀成▲同桂△7六桂▲9八玉△8八金まで。
またC▲3二飛△5一玉▲6一銀成△同玉▲8三角成△5一玉▲8四馬には△7三桂(下図)がピッタリで、後手の攻めがほどけません。
そこで、石田五段はD▲7六金と、金をかわして受けました。
これも最善の受けですが、藤井七段も△7八歩と最善手で攻めます。
これに対してA▲同角には△8四桂(下図)が厳しい詰めろです。
(角を引かせた効果で▲3二飛~▲6一銀成~▲8三馬~▲8四馬の筋が消えたので、△8四桂が打てる)
そこで石田五段はB▲同玉と応じましたが、藤井七段は△7七歩。
これをA▲同桂と取るのは△同桂成▲同金△8五桂(下図)で、先手玉は受けなしです。
そこで石田五段はB▲7八玉と逃げましたが、藤井七段は△7八銀。
藤井七段は、これで先手玉が必至になることを最初から読み切っていました。
この手も詰めろで、
A▲6三銀成には△7九角▲同飛△同銀不成▲同玉△6九金▲同玉△5九飛(下図)以下の詰みがあります。
B▲7九歩と受けても△8七銀成▲同玉△7五桂▲同金△8六銀▲同玉△7五銀▲同玉△6四角以下、別の筋で詰みが生じます。
C▲8五金と桂を外しても△7六桂▲7七玉△8八角▲8六玉△7五金▲同金△同銀▲同玉△6四銀以下の詰みがあります。
そこで、石田五段はD△同角と取って下駄を預けました。
先手の持ち駒に銀が増えたので▲3二飛以下の詰めろが生じており、後手はここで先手玉を詰ませられなければ負けです。
しかし、藤井七段が詰みを逃すはずもありませんでした。
以下、△同歩成▲同玉に△8六桂が詰将棋のような一手。
これをA▲同歩と取るのは、△6七角▲同玉△5八角▲7八玉△6七銀▲8八玉△8七歩(下図)以下の詰みです。
そこで石田五段はB△同金と取りましたが、△7七銀▲同桂△同桂成▲同玉△6六角!
これをA▲同玉と取る変化が一番長いですが、
△5五角▲7六玉△7七金▲8五玉△8四歩▲同玉△7三銀▲8三玉△7四銀▲8四玉△7三角まで芸術的に詰みます。
実戦はB▲6七玉と逃げましたが、△7七金と打ったところで石田五段の投了になりました。
投了図以下は▲6六玉に△5五角▲5六玉△4四桂▲4五玉△3四金までの詰み。
本局の△7七同飛成の一手は高く評価され、藤井七段は翌年の升田幸三賞を受賞しました。
以上、今回のブログでは藤井聡太の名局を解説しました。