旅の終わりに | 風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」

「もうすぐだね」腕時計に目をやった女が、ふう、とため息ともつかない息をはいて駅舎を見た。

「野暮なこと訊くようだけど、あんたどこに向かってるんだい?」
男は答えず、かすかに苦笑した。

「それとも、どこかへ向かってるんじゃなくて、何かから逃げてるのかい?」
「行く先が分かっていれば、苦労はないんだけどね」ぽとりと落とした煙草をつま先で消した男はすこし眉をしかめた。

「あんたさ」
男は耳を傾けるように女の顔を見た。
「ひょっとしてだけどさ」女が言いよどんだ。

「気を悪くしないでほしいんだけど……人を殺そうとしてるんじゃないのかい。あんたの体からはさ、なんていうか……殺気が出てるんだよ」

男はきゅっと眉根を寄せて答えない。それは、否定しないも同然だった。

「ここなのかい? 北海道なのかい? 目指す相手は間違いなくいるのかい?」

男は煙草をひと振りしてくわえ、そのタバコを手に取って、そうらしい、と答えた。

「やめときなよ。人を殺していいことなんてひとつもないよ! 捕まったら終わりだよ!」女は両の拳を振り下ろした。

男は煙草に火を付けて、空に煙を吐いた。
「それが、終わってない男がいるんだ。平気で生きてる男が」

「もしもさ……」女の顔が苦しそうにゆがむ。
「もしもやっちまったらさ」やがて体が震え始める。

「……あたしんとこに逃げておいで。どこにも寄らずにさ。何があったかは知らないけど、どうしてもやるんでしょ」

男が長い息を吐いた。
「妻もまだ若かった。娘は3歳だった……飲酒運転だ。刑期がたったの7年だった。世の中狂ってる」

「そうだったのかい……そりゃあ悔しいね。敵討ちなら止めようもないね。あんたがやり遂げたら、そんときゃさ、ふたりしてお線香あげて報告しよう。それからさ、あんたのことは、あたしが一生かくまってやる」女は男を見た。男はふっと息を吐いて、口を引き結んで微笑んだ。

「ありがとな。そんときは、必ずここへ帰ってくる。待つ人がいるってのは、悪いことじゃない。俺を待つ人たちは15年も前に消えたからな」

「これ、持っていきなよ」女が合鍵を指先で振った。
「もしもお店が閉まってたら、部屋にいるから。引っ越さないで待ってるから」

「一宿一飯の恩義忘れないよ」

物寂しげな音をさせて、ビュウと電線が鳴り、髪を両手で抑えた女が空を見た。

「あ……遣(や)らずの雨だよ」




デビュー後10年間はヒットに恵まれず、日本コロムビアに移籍して1977年に自らも出演したテレビ朝日のドラマ『海峡物語』(1977年4月7日 - 9月29日)の主題歌「旅の終りに」が念願のヒットを飛ばすが、それ以降はしばらく苦節の時期を過ごしていた。

1992年に発売した「炎」(作詞:三浦康照、作曲:和田香苗)のリリースにより、「アイ、アイ、アイライク演歌」の一節が、脚光を浴び「演歌」のイメージを変え、若者の支持も受けるようになる。


─Wikipediaより─

作詞家「立原 岬」は五木寛之のペンネーム。

旅の終わりに / 冠二郎
作詞 / 立原 岬 
作曲 / 菊池俊輔

流れ流れて さすらう旅は
きょうは函館 あしたは釧路
希望も恋も 忘れた俺の
肩につめたい 夜の雨

春にそむいて 世間にすねて
ひとり行くのも 男のこころ
誰にわかって ほしくはないが
なぜかさみしい 秋もある

旅の終わりに みつけた夢は
北の港の ちいさな酒場
暗い灯影に 片寄せあって
歌う故郷の 子守唄



ポチポチッとクリックお願いします。

短編小説 ブログランキングへ

blogramのブログランキング


にほんブログ村