案山子 | 風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」

おんぼろアパートを出て、大家さんちの駐車場を抜けて左に行く。十字路を右に曲がってすぐ左に古びた団地があった。

そう、僕が銭湯へ向かう道の途中にその団地はある。その入り口近くに公衆電話があった。

外はもう暗くなっていた。もう、お金がない。学校に行く電車賃もない。



「もしもし」僕は受話器を握りしめた。

「○○?」姉の声が返ってくる。
「かあちゃんは?」
残り少ない十円玉は、無情にも早いペースで吸い込まれてゆく。
それで何か食べられただろうけれど、残した十円玉は、電話を掛けるための僕の命綱だった。

「掛けなおすから、番号は」母の声。
電話ボックスの中で番号らしきものを必死で探す。もう投入する十円玉がない。

「○○○って書いてある」僕は振り絞るような声を上げた。
「掛けなおすから」
間に合った。電話は切れた。

受話器を戻した僕は、夜の電話ボックスで、かかってくるはずもない電話を、待ち続けた。


案山子/さだまさし



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