時折吹き上げる風に、バランスを取ながらカモメが舞う。

凪いだ海。一日を終え、沈もうとする太陽。波打ち際に傾(かし)いで浮かぶ古ぼけた船。
「おう、見事に乗り上げちまったな。んにゃ、話したくなければ黙っててもいいさ。そりゃあ色んな事情があるさ。女だてらにここまで船を操ってくるのは大変だったろう」
船大工は、損傷を確かめるように船を見た。
「ダメになっちまったところは直してやるからさ、しばらく休んでなよ。そのあと船を出すも出さないもあんた次第さ。けどな、海を渡ってこその船さ。な、海を行くのが船だ」
「面舵、取り舵、あんたの自由だ。でもな、手を放しちゃいけない。投げ出しちゃいけない。だって、あんたの船なんだからさ。海が荒れたってあきらめちゃいけない」
船大工は首にかけたタオルを外してパンと広げた。
「ほら、おんぼろタオルで申し訳ないけどよ、涙、拭いなよ。ゆんべ洗ったやつだからさ、ほら、涙、拭いなよ」
船大工は鼻をすすった。
「泣くなってばさ、あんたの船はよ、俺が間違いなく直してやるから。あんたの心はさ、ほら、あのカモメが癒してくれるからさ。ほら、応えるように鳴いたじゃないか」
中森明菜/難破船
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