見えない彼女「27」 | 風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」

「うーん、やっぱり知らない人だねえ」美佐枝は眼鏡をはずして裕史を見た。

「何で知らない人がピクニックに混ざってるの? おかしいじゃない、すぐ後ろに立ってるのに」裕史がぶるっと体を震わせる。
「やだよ、お墓だからって幽霊が写ってたりしたら」裕史の声に美佐枝もぞっとする。

どれどれ、と同じく眼鏡を掛けて覗き込んだ母が、あーっと呟いた。
「これ、幽霊だわ」

「いやだあ」上半身を寒気が走り、美佐枝は両の二の腕をさすった。
「美佐枝、よく見てごらん。お前のおじいちゃんとおばあちゃんだよ」

手に取ったアルバムをじっと見た。
「あ、若いころの?」
「うん。若いねえ。何かを知らせに来てたんだろうかね。でもさ、あの頃写ってなかったわよね。写ってたら大騒ぎよね」

「美裕が笑ってるよ。ん? なに?」
「なに、何のお告げ?」美佐枝は前のめりになった。

「遊びに来てただけだって。どうやら美裕は写真を見たときにわかったみたい」
「幽霊の正体見たりだねえ。ほんとに幽霊だけど」母が懐かしそうに写真に見入っている。

「あ、そうだ」母が写真から顔を上げた。
「あたしんちにさ、裕江の小さいころから、ヒロちゃんを生む前までの写真があるんだ。その中にこの幽霊たちが写ってるよ。だから今度持ってくるからさ。それとさ」
ふぅっと息を吐いて、声を小さくした。

「さっき美佐枝が口にしたけど、父親捜しはやめなさいよ。孝史って名前を知っただけにしておきなさい。ヒロちゃんを我が子として育てた健司さんが悲しむし、あたしももう手がかりなんてないんだから」

裕史は小さく何度も頷いている。初めて実の父の名を聞いてどんな思いでいるのだろう。

「その写真に孝史さんも写ってるよ。でもね、見るだけにしときなさい。ヒロ君を捨てたわけじゃないからね。美佐枝が、あたしが育てるって強硬に言い張った結果だから」

祖母の言葉を美佐枝は引き取った。
「男手ひとつで子供を育てるのは大変だよ。それにね、孝史さんが再婚したら、裕史が継母に育てられることになる。それも不憫だしね。でも、手紙がね」美佐枝は母を見た。

「うん。それこそ血を吐くような手紙だった。あたしたちもね、むごいことをしてしまったって心が痛んだんだけどね。それはそうよね、奥さんと子供をいっぺんに失ったんだから。でもさ、最後には、裕史をお願いしますって、頭下げてさ」

息子の裕史にとっては遠い遠い昔のおとぎ話。けれで美佐枝にとっても母にとっても、それはついこの間のこと。

はぁー、母が静かに長くため息を吐いた。
「今は幸せに暮らしているといいんだけどね」


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