貧乏学生が行く!「13」 | 風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」
─定食屋 ②─

「おまちどおさま」
カウンターの上の配膳台にご飯と香の物が乗った。それを厳かに手に取り、目の前に置いた僕は箸を手にした。
腹を空かせていた僕の胸は期待で膨らんでいた。間もなくお味噌汁も乗った。

ご飯を一口ほおばる。香の物を少しかじり、お味噌汁を口に運ぶ。とても美味しかった。

そして僕はおかずが来るのを待った。
ご飯を先に食べ終わるのは笑えない喜劇だし、ご飯が最後に残るのは泣くに泣けない悲劇だ。



ラーメンと餃子を頼んだのに、餃子がだいぶ遅れて出てきたりすると、その組み合わせを頼んだ意味がなくなるのと同じだ。

ご飯とおかずの最後の一口は、同時に終わらなければ台無しだ。

食事も終盤戦に入ると、ご飯とおかずを見比べながら、どうだろう? ご飯はこれくらいか? おかずはこれくらか?
ちょっと神経質なくらいに考えながら食べていく癖はいまだに残っている。

話はそれるけれど、最初に何に箸を伸ばすかを、僕は友人たちを相手に調査したことがある。
お味噌汁派が多かったと記憶している。その味噌汁のお椀でお箸をちょちょいと洗い一口飲む人が多いのだ。次いで多かったのはおかず派だった。

僕はというと断然ご飯を一口先に食べる。ご飯が美味しいと、もう何も言うことはない。ご飯が美味しい店でおかずが不味いなんてあり得ないし。

カウンター越しに店員さんを見た。しかし僕の目が捉えたのは、テレビを見ているお兄さんのちょっといなせな後ろ姿だった。

何かを作っている気配はない。
煙も上がっていなければ、匂いもしてこない。

お……おかしいな……。

ご飯を少しほおばり、香の物をちょっとつまみ、味噌汁をくぴりと飲む。

何の動きも見せないお兄さんに、僕の不安は胸苦しくなるぐらいに大きくなっていった。
そして僕は恐ろしい想像に行き着いた。

定食って、これの事じゃないのか……。

その僕の忌まわしい想像は現実となった。定食って、ご飯と香の物とお味噌汁。その三点セットのことだったのだ。
「定食160円」を今日の定食と勘違いした僕のミスだった。

おかずを頼まない人なんて前代未聞じゃないのか。
どうやって帰ろう。なんて言って席を立とう。どんな顔して店を出よう。
僕の頭はそれだけで、いっぱいいっぱいになった。

それでも僕は踏ん張ろうとした。
いやいや、知ってて頼んだんだよ。し、知ってて頼んだんだから……。
ほんとだよ。今日はお金持ってないから、知ってて頼んだんだから……。
これを日本語で、無駄な抵抗という。

ご飯をほおばり香の物をかじり、お味噌汁を口に運ぶ。
恥ずかしさで何の味もしなかった。

「ごちそうさまでした」
かろうじてそれだけ口にすると、店を後にした。僕の耳たぶは羞恥で熱を持っていた。


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