貧乏学生が行く!「12」 | 風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」
─定食屋─

かつて住んだあの場所に思いを馳せるとき、僕の脳裏に浮かぶ一枚の景色がある。

暑かったという記憶はないから初夏の頃だろうか。緑の葉が左右から道路に伸びて、木漏れ日がアスファルトを揺らしていた。

僕の頬にも心にも、心地よい風が吹いていた。日も高かったし、思い出すときの気分の良さからいっても休日のことに違いない。
なぜか記憶に残るあの風景が、僕は大好きだ。



その閑静な住宅地を抜けて通りに出る角に、何の飾り気もない定食屋があった。頻繁に外食なんてできる身分ではないから、僕はその店に入ったことがなかった。

それはある日のことだった。学校帰りか、あるいは休日の本屋帰りだったのだろうか、商店街を抜け、通りを渡って歩いてきた僕は手書きの看板を見た。

いろんなメニューが並んでいる一番下に、それは書いてあった。
「定食160円」

え! 定食が160円!?

今まで全く気がつかなかった。

通り過ぎた僕はもう一度戻って看板を見た。
「定食160円」

定食といえばおそらく300円ぐらいはした時代だ。なんて懐に優しい店なんだ。
でも、おんぼろアパートに向けて僕は再び歩き出した。
だって、160円あったらインスタントラーメンが4つか5つは買えるじゃないかと。

けれど、定食という名の誘惑には勝てなかった。なんて魅力的なんだ。

ジーパンのポケットの小銭を探り、踵を返した僕は思い切って引き戸を開けた。
そこは、カウンターといくつかのテーブル席がある作りだった。通りを入った側にも嵌め殺しの窓が並び、明るい店内だった。

食事時ではないせいか、客はひとりもいなかった。カウンターに座った僕は頼んだ。

「定食ください」

─続く─

あ……「ちんちんに輪ゴム事件」の結末を書いていなかった。
あれは恐ろしいほどにあっけなく解明された。

「それって、仮性包茎だよ。俺雑誌で読んだんだ。輪ゴムを巻くと治るって」

ふうん……
みんな一気に興味を失った。ひとりを除いては。

「ほんとに治るのかな」
「知らん」

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