小学生だった僕たちは、写生の授業で来ていた。いつも見慣れた景色だけれど、クラス全員で来るなんてそうそうないことだから、それはそれで楽しかった。
漁船がたくさん泊まっていた。魚を水揚げする市場も見えた。そうそう、その市場で僕は小さい小さいフカの赤ちゃんを見たことがある。コンクリートの上でピチピチ跳ねていた。
「飼える?」
僕の質問に、市場のおじちゃんは「飼えん、飼えん」と大げさなほどに手を振って笑った。10センチもなさそうな小さな赤ちゃんフカだった。

話がそれちゃった。
スーパーも見えた。その向こうに立ち並ぶ商店や家々も見えた。止まっている自動車も見えた。
漁船のマストが無数に立っていて、僕の頭は混乱していた。そんな僕たちの近くにやって来た先生が言った。
「そのまんま描かなくたっていいんだよ。違うところにあるものをそこに置いて描いてもいいんだ」って。
芸術なんてものにはほど遠い年頃の僕は、その言葉にとても違和感を憶えた。
――あるものをあるがままに描くのが絵じゃないの?
あなたを思い出す この店に来るたび
坂を上って きょうもひとり来てしまった
山手のドルフィンは 静かなレストラン
晴れた午後には 遠く三浦岬も見える
ソーダ水の中を 貨物船がとおる
小さなアワも恋のように消えていった
あの時目の前で 思いきり泣けたら
今頃二人 ここで海を見ていたはず
窓にほほを寄せて カモメを追いかける
そんなあなたが 今も見える テーブルごしに
紙ナプキンには インクがにじむから
忘れないでって やっと書いた遠いあの日
ユーミンが描いた失恋の歌に登場するドルフィンは実在するお店なんだけど、三浦岬なんてないって、君は知ってた?
ユーミンがイメージしたのは観音崎らしい。語呂が悪いから、三浦岬って名前を勝手に作っちゃったらしい。三浦半島から取ったのだろうか?
それに、ドルフィンは山手駅より根岸駅が近いらしいし。
この歌を聴くと、悩みとか、痛みとか、苦しみとかとは対局にいた遠い昔の写生の時間が浮かぶ。
なんでだろうね。
海を見ていた午後 作詞:作曲 荒井由実
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