夜明け | 風神 あ~る・ベルンハルトJrの「夜更けのラプソディ」
自殺者は14年連続3万人を超えているらしい。
男性の自殺者は、女性の倍以上。

死ぬ気になれば何でもできるだろうに。
そんな声をたまに耳にする。

はたしてそうだろうか?

死ぬ気になったら、支払うべきお金が出現するのだろうか?
死ぬ気になったら、差し押さえが止まるのだろうか?
死ぬ気になったら、命を脅かす病が治るのだろうか?
死ぬ気になったら、死んでしまった愛する人が帰ってくるのだろうか?

それは追い詰められたことがない人が口にする台詞。

そんな状況で、前向きに進むことはなかなか難しい。

方法はひとつ。
耐えること。
恥を忍ぶこと。
今を、一分一秒を、何が何でも生き延びること。
あと1時間生きてみよう。

そして考えよう。それでもなお、自分はツイていると。
何でもいいから、ラッキーと思えることを、苦しい中でも探すこと。
生きていることに感謝すること。

絶対に、自ら死を選んではいけない。

「○○さん、これは……動脈瘤かもしれません」

僕の右目の横からまっすぐに、そう、目の前十数センチの辺りにまっすぐに、真っ黒いものが、突然伸びてきた。
それは蛇行し、やがて、その先が、ぼやけて滲んだ。
僕は思った。
これは出血だって。

眼底出血。

眼球の中の底の血管が切れるんだね。

動脈瘤?!
静脈瘤破裂でも、命を落とす人がいるんじゃないのか?!
それが、動脈?!
それも、眼球の中?!

「午後に、造影剤を入れて検査します」
医師は沈痛な表情を浮かべた。

まだ20代だった僕は、そのとき、死というものを意識した。
右目を失っても、生きたいと思った。

「何か食べていった方がいいわ」
彼女、後に奥さんになり、今は他人となった人が言った。
「いらない」
部屋のベッドに腰掛けた僕は、そのままコテンと横に倒れ、両手を太ももに挟んだ。
僕は、小さい、小さい、繭(まゆ)になった。

そのときの僕は、それ以降、そして、これまでつかみ取ってきたものとは無縁だった。
人間は死んだら終わりだと思っていた。
だから僕は、何もできず、夢の中にいるようだった。

僕が苦しみの中でこの手にしてきたものを、君に何度でも言おう。
人は死んだら終わりじゃないって。
魂は不滅なんだって。

だから、愛する人が逝っても悲しまないように。
その人の魂は、天井辺りで見ている。
だから、上を見上げて、
「あなたは死んだのよ。今までありがとう。また、会いましょう」
そう呟きなさい。

その人は、自分が死んだことにまだ納得していないし、誰も自分を見ないことに悲しみを覚えている。
だから、君が気づいてあげなさい。

そして自分の肉体の死に納得し、あの世へ還ったら、君の愛する人は、君をずっと見守る。
君の心に、夜明けが来るようにと。



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