「○○さんは、○○ですか?」
そう、僕は担当場所を聞かれたのだ。
「うん、そうだよ」
「寂しいぃ」
それは予告だった。
君の心の叫びだった。
そして時間は過ぎた。
大丈夫です。そう言う23才の君の顔色は全然大丈夫じゃなかった。
「大丈夫じゃないだろ!」
異変に気づき担当場所を離れた僕は、君の二の腕をつかんだ。引き寄せた僕は、背中と言わず、腰と言わず、手のひらで、胸の詰まる思いで君を叩いた。気丈に振る舞っていた君が、やがてしゃがみ込んで泣いた。
君が見せた涙を、僕は待っていたのかもしれない。
僕は君を泣かせなければならなかった。
涙は女のカタルシス。
泣きたいだけ泣けばいい。泣くべき時には泣くのだ。
もっともっと大人になったら、人前で泣けなくなる。
そのうち、泣いたら慰めではなく、思い切り引かれる状況が生まれるんだから。
僕が人前で最後に泣いたのは、20代後半に入った頃だったかな。
その頃の僕は飲食店の店長をしていた。そこで、とても嫌なことがあった。
信頼していたサブが、お金を持ち逃げしたんだ。
僕は憤っていたし、やるせなかった。
被害の大きさよりも、信頼を裏切られたことに呆然としていた。
その店はチェーン展開しているお店の本店で、売上金が集まってきた。
各店の店長たちが集まってくるのだ。
その夜のみんなは、何かよそよそしかった。
そう、その話には触れたくないのだ。
僕はひとりぼっちだった。
そんな中、かつて僕の上司だった、とても親しい店長がやってきた。
「ん、ん、○○ちゃん、大変だったね。ん、ん」
肩を叩かれた。その声を聴いたとき、僕はボロボロと涙をこぼした。
椅子に座り、テーブルに両肘を付き、嗚咽を噛み殺した。
涙は後から後から溢れてきた。
たった一言が、人を救うときがある。
それが、そのときだった。
君はとても不幸な上司に出会った。
ううん、それはもちろん、僕のことじゃない。
僕と君の上司だね。
その上司と真っ向から揉めてしまった君。
もう辞めます。僕の横で君は言った。
「ダメだ! ここで辞めたら余計に悔しいだろ! 辞めたらダメだ! もう、泣くな」
君を泣かせようとした僕は、やはり君のゆがむ顔など見たくなかった。なおも僕は君の背中を叩き、撫で続けた。
「もう、泣くな。な」
あ、叩く場所を間違えて、ちょっとブラも叩いちゃったかも……。
君が泣いて良かった。僕が出勤の日で良かった。
大丈夫か? ちゃんと出てくるんだぞ。
そう言って関連の夜勤に向かう僕に、
大丈夫です!
そう答えた君の顔は、大丈夫そうで、嬉しかった。
心から、嬉しかった。
君を含めて、古株3人組がその夜酒を飲みに行ったと聞いた。
一昨日、君がひとりで立ち向かっていたとき、仕事を放棄してまで、君を守ろうと僕がどう動いたかは彼らにもう聞いただろう。
君は無力ではない。
この僕を、突き動かしたじゃないか。
職をなげうってでも、君を守ろうと、この僕を動かした。
今この瞬間も、思い出になっていく。
よい思い出を作りなさいね。
そして、いつか思い返して、笑おう。
硝子の少年が揉まれ踏まれ叩かれて、いつしか、しなやかな鋼になったように、
君も強くなっていきなさいね。
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