吉田健一著『化けもの屋敷』
一人暮らしには少し広い一軒家、時おり何かの気配がする。閉めたはずの仕切り戸が開いていたり、自然と閉まったり。灯りの点いていない部屋で話し声がする。沓脱ぎ石の庭下駄が乱れて置かれている。流しに下げた茶わんがいつの間にか洗われている。
そしてある日外出先からの帰り道、ご老人に付き添って歩いていたご婦人に会釈された。親しげで、こちらもよく知っている雰囲気で、でもすれ違ってからはて誰だったか、振り返ると姿は消えている。
そこで気付く、家に居るのはあの人達か⋯。
このとっても短いお話、ずっと前にも取り上げたのですが、再び。
好きなんです。
気の良い幽霊さんと、怪異な事ををそのまま受け止めて、なんなら先に住んでいる存在として尊重している主人公。
先住幽霊さん一家は実は犬も飼っていて、夜寝ている 主人公の顔に犬の鼻先が押し付けられた感触を感じたり、縁側で寛いだりしている気配がします。
主人公が引っ越してくる前から幽霊さんたちは家で団欒していたのだろうと想像すると微笑ましい気持ちもします。
著者の『怪奇な話』という作品集の中の一つです。
他に、魔法使いが土地を入れ替える話(「山運び」)や、宝くじ売りのお婆さんが美女や天馬になって色々な場所に連れて行ってくれる話(「お化け」)など。
どれもそんなに怖い物語ではない。語り口も淡々としています。
だから、怪異なものたちと日常とが地続きで境界があやふやに感じられて、そのうちに自分はどちらにいるのか、存在の感覚が揺らぎ始めるようです。
それが怖いといったら怖い、ような。
著者の吉田健一は、戦後内閣総理大臣に就任した吉田茂の長男。
ちょっと昔の人です。
なので、文章が少しとっつきにくいです。
難しいということではないけれど、読み辛い。
じんわりじっくり描写されているので、読み取るのに時間がかかります。よく噛まないと飲みこめない、という。その分おいしい、心に落ちていく文章という気がします。
このお話は時々読みたくなるのですが、今回は息子のせい。
息子その2君、図書館で借りた本が難しくて期限に読み終わらなかったと見せに来ました。それが吉田健一の別の怪奇物の文庫本。血筋なのかヒヤッとした物を読みたくなったらしいです。
で、あらコレは家にあるよ、と私が持っている『吉田健一集成8巻』を引っ張り出しました。続き読むなら貸すけど、と言うと、いえ結構ですと。
それで私はちょこちょこ拾い読み。
全9巻の『集成』のうち持っているのはこれ1冊のみです。「化けもの屋敷」を読みたくて探したら当時はこれしか載ってる本がなかったので。
久々に読んでつくづく思ったこと。
好きな作家さんの全集本を買う時に、暇ができたら読みたい老後の楽しみにと理由つけたりしますが(しませんか!?)、厚さ4cmの本は、読むのが大変と気付きました。重い!
もっと年とったらもっと大変!
全集本は老後は無理、を拡めよう。