世界に先駆けての劇場公開


「プリンス ビューティフル・ストレンジ」

Mr. Nelson On The North Side

2021 カナダ 68

@UPLINK京都 平日9:45 観客9




この間、いつかのスーパーボウルにおけるプリンス伝説のハーフタイムショーを久しぶりに見た。ゾクっときた。タイミングが合わず見逃していた本作の最終上映日に滑り込む衝動を得た。


3年前に制作されていたが不運続きで北米でも劇場公開されていなかったところ、日本の配給会社の熱意によって世界に先駆けて劇場公開に漕ぎつけたドキュメンタリー。


「ミネアポリス北部のネルソンさん」という原題のとおり、本名プリンス・ロジャース・ネルソンの幼少期から「パープル・レイン」あたりまでを中心とし、ミネアポリスに焦点をあてたいわばプリンス版「ミシシッピー・バーニング」だった。プリンスの曲は流れない。イントロが何曲か使用されているだけで、プリンスに近い存在や半端ない尊敬の念を抱く人へのインタビューで構成されている。


日本では知り得ないミネアポリスの歴史を交えてプリンスの少年期から語られる。"プリンス版「ミシシッピー・バーニング」"からお察しいただきたい。ミネアポリスの白人率が90%以上だなんて知らなかった。そんな街で育ったプリンスが影響を受けたのはジョニ・ミッチェルや、僕の知らない白人バンド。


以下、証言の一部をいくつか。


初めてのステージではずっと客席に背中

全部演じていた

寝てるところを知らない

自信がないからプレミア上映では席でうずくまってた


最後まで越えることができなかった壁があったと、かなり近しかったチャカ・カーンでさえそう言う。心の中を守りたかった人だと考えれば、孤高の天才にちょっと指先が触れた気がする。自分が何者であるとか、何者であるかを分かってくれだなんてこれっぽっちも思ってなかった人だと思うけども。


SNSではファンとの垣根がとても低かったエピソードも披露され、モノマネの天才でもあるって聞いたことがあったけど、チャカ・カーンから語られるそのエピソードは、苦めな後味の本作中で唯一笑えるものだった。


僕は無意識で差別意識を持っているし、無邪気に偏見を露わにして生きているだろうと思ってる。それでもなんとか、エセだとしても、差別も偏見もよくないし同じ人間なんだから老いも若きも性別も人種も関係なく、干渉することはせずうまくやっていこうやと思えるのは、プリンスの鬼多作な音楽や歌詞、精力的なライブ活動のパフォーマンスを通して見てきたもの、それらの影響もあるのだと思う。


つくづく、なんじゃこりゃという体験をたくさん与えてくれたプリンス、没後8年。でもどこか静かな場所を得て創作活動を続けてると半分本気で思ってる。