心の中にカサンドラを持て


「カサンドラ・クロス」

1976 伊・英・西独・仏・米 129

午前十時の映画祭にて

@京都シネマ 平日9:55 観客13


20年ぐらい前、あるイケおじに言われたのが冒頭の言葉だ。意味はあんまり分かってなかったけどそんなこと言う人が周りにいなかったので楽しくて、ちょくちょく大阪に会いに行った。いまなら言える。僕はずっと心の中にカサンドラ・クロスを持っていると。


上映開始35分前に映画館に着いたところ、長蛇の列!みんな心の中に持ってたんか!

と喜んだのも束の間、ほとんどの人は「PERFECT DAYS」だった。心の中に役所を持ってたのか。


とはいえ平日で13人は上々だろうと意気上がる僕、47年ぶりの劇場鑑賞。9歳のとき、母以外の家族総出で観て以来だ。当時のパンフレットを持参して祭に参加してきた。


「サウンド・オブ・ミュージック」的な空撮スタート!ヘリ撮影だからドローンよりも不安定な浮遊感がよすぎ!アルプスの、いくつもの切り立つ稜線を越え、カメラはジュネーブ、ローヌ川へ移動してくる。そこにジュリー・アンドリュースはいないがWHOの本部がある!移動撮影の美しさに見惚れる。

そこに、悲劇性を感じる劇伴に加え、黒文字のタイトルバックでも本作にハッピーエンドなどないと匂わせるああ映画芸術!まさに映画的で最高のオープニングだ!


資本に忖度し、イタリアンなスコアを奏でるジェリー・ゴールドスミスが2度別れた中年夫婦に火をつける。47年前、9歳の僕の目にはどう映ってたのだろうか。まったく記憶にないが、心の中にはずっと、カサンドラ・クロスと共にソフィア・ローレンの広大な瞼があったのだ。



心の中にあったはずなのに完全に衛星ガニメデの彼方に忘れていたのがアン・ターケル。「ポセイドン・アドベンチャー」のパメラ・スー・マーティンのことは片時も忘れたことないのに。

劇中、I'm still on my wayというカントリーを歌い、美貌と共にオラオラ忘れてんなよと舞い降りた。このとき既にリチャード・ハリスの奥さんだったのか。





テロリスト

細菌兵器

軍の闇

大佐もまたサラリーマン

強制収容

麻薬取り締まり

車窓からの眺め

列車アクション


などなどてんこ盛りでカサンドラ・クロッシングへ向かう展開に、いまの目で観ればツッコミどころも少なくないが大興奮!


生存者は

マッケンジー大佐は

女医エレナは

チェンバレン博士は

作家ジェニファーは

そもそもこの事件は



多くのことが「それはまた別の物語」的に終わるラストまで最高だ。説明不足は映画表現の高等技術。本当のことはあいまいでいいのだ。


パンフレットを読み返して驚いた。

当時、日本ヘラルド映画が「世界最速、カサンドラ・クロスをローマで観よう」という企画を立て、100人の日本人が参加。

参加者同士のトラブルあり、字幕なしの上映、関係ないジュリアーノ・ジェンマ登場のパーティーほかカオスが想像される鬼ツアー。凄い時代。