十字架を背負いし者へのレクイエム。
「ゴーストマスター」
2019年
@京都みなみ会館
"究極の映画愛"
このコピーを目にしてすぐ、公開初日に観ると決めていた。闇雲に全力な作品に対して映画ファンがまず出来ることは、初日に行くために全力であれやこれやを排除することだ!
これまで日本が量産してきた壁ドン映画、いわゆるキラキラ映画は全て、この作品の布石だったのだ。
そして、これを壁ドンの墓場としながらも、そんなキラキラ映画と80年代ホラー及びSFホラーをツギハギだらけの暑苦しい映画愛で包み込んだ傑作だった。
主役の名前が黒沢明。
お人好しで将来を誰にも期待されていない何でも屋の助監督で、猛烈パワハラな監督から「世界のクロサワさんよお」とかいじられる日々。温めている自作脚本は40稿を超える映画オタクで、巨人と同姓同名っていう十字架を背負って生きてきた。
演じた三浦貴大さんもだいぶ重い十字架を背負ってきたことと想像に難くないが、本作の演技を見る限り完全に振り払っていて気持ちがよかった。
「トビー・フーパーに謝れ!ロメロにもカーペンターにもデパルマにもフリードキンにもフルチにもライミにもミラーにもダンテにもランディスにもスピルバーグにも深作欣二にも中島貞夫にも野村芳太郎にも黒澤明にも謝れ!」のセリフは永遠に聞いていたい。
「タランティーノはいいのか?」と聞かれて「あいつはいい」っていうさじ加減も最高だ。決してディスっていないから。
成海璃子ちゃん演じる真菜もまた、昭和のアクションスターを父に持ち、バーターという十字架を背負った女優。賞味期限終わりかけている女優っていう役柄も微妙に璃子ちゃんとリンクしてるんですよね。僕は璃子ちゃん大好きだから全然そんなことは思わないけど、一般的に大ヒットする普通の作品の中に彼女が輝く場所は、しばらくはないような気がしてる。きっとまたその時は来るという確信を持ちながら。
成海璃子ちゃんほんと好き。あたかもすぐ打ち解けそうな清楚な感じを維持しながらも、"とにかく狂ってるから"と「悪魔のいけにえ」を究極のNo.1映画に挙げる突き抜けた映画アイが素晴らしい。オリジナルフィルムがNY近代美術館に保存されてるんだもんな、人間が作りし究極の恐怖だから。でも美しい場面もあり、映画的興奮に満ちてるもんな。成海璃子ちゃんと先斗町のバー行きてえ。
脱線し過ぎた。
世界中の誰よりもきっとスペースバンパイアへのオマージュを炸裂させ、ご丁寧なことにヘンリー・マンシーニの勇壮なスコアを安上がりに再現し(褒めてます)、死霊のはらわた、ゴーストハンターズ(バスターズじゃないよ、Big Trouble in Little Chinaのほうね)、サンゲリア、数々の安物ホラー、そして鉄男といったいまも鈍い光を放つ「俺たちの映画」をツギハギしながら、でもベースはキラキラ映画っていう奇跡。
そのキラキラ映画をディスりながらも、映画全般への暑苦しい愛と、愛なき作品を量産する映画界への激しい怒りがあり、それが本編とリンクしてるところが実によく出来てる。怒りが一つのテーマデス。
語り過ぎでこれ読んだら観る必要なくなるから締めにかかろう。ややネタバレあり。
なんやかんやと爆笑の怒涛の展開があって、黒沢明は美しい姿の夢を叶え、浄化される。ここ味わいある感動ポイント。
物騒な世の中なのでアイスクリーム(あずきバー推奨)はカチカチに凍らせておくに限るという生活の知恵があり、背負ってきた十字架をそのアイスクリームに持ち変えて父を超えていく真菜の姿もまた感動を呼ぶ。
ラストのアレは好きに解釈していいのだと思うけど、これもまた、全ての映画への愛と怒り。
そうだ。劇中、こんなセリフがあった。
「原作無視して予算ありきで観客馬鹿にして…真面目に映画作りましょうよ!」(ちょっと違うかも)
これ、全ての映画関係者に届け。
監督はヤング・ポールっていう、今にも"every time you go away"って歌い出しそうな名前だけど、日本で映画を学んできて長編手掛けるのが今回初の人らしく。なかなか楽しみな34歳。