【からだの美】

からだの美。生物の体の構造・機能美に着目した随筆集。

からだを見ることは誰でもできる。しかし言葉の選び方ひとつで、ここまで神秘的に対象を描写できるのか。作家ならではの言い回しも含めて、納得させられる篇が多くあった。

 

対象はスポーツ選手、動物、俳優、バレリーナ、棋士など多岐にわたる。

筆者、小川洋子の審美眼はそのまま対象者の細部にフォーカスする。

そして人生観、文化、意味に波及していき、彼女の洞察が深まっていく様はまさに美しい。

 

からだの美とは、観るもの観られるものが一対となって完成すると思わせてくれる。

 

つまり行為はアナログであり、どこまでもフィジカルな要素を孕んでいること。

1つずつ、意味づけを考えることができる「ヒト」ならではの解釈が中心といえる。

 

それを象徴するかのように、16編の最後は赤ん坊の握りこぶしに対する考察で終了する。

まだ何者でもない赤ん坊が、自分の手をじっと見つめるハンドリガード。

内なる力を秘めつつ、そっと隠しながら、無意識的に自分のからだを発見していく。

未知の可能性、そして手の中心には自分がいる。ひとりがいる。

 

イチローも、高橋大輔も、貴乃花も、バレリーナも、ゴリラも、ネズミも全ての美は

生まれて自己を発見することから始まる。筆者はあくまでそれを他者目線に置き換えて言葉を紡いでいく。それが妙に腑に落ちるところが醍醐味である。

 

美しい=いきものすべてにいえること。 

醜悪は関係ない。そこに存在するのであれば全ては意味があり、生命の力強さ、ひたむきさ、儚さが宿る。それが美の根源であるのではないか。

何者でもない自分も、誰かからすれば美しいかも...(そうでありたい苦笑)

 

カバー表紙である彫刻は、中谷ミチコ作「すくう、すくう、すくう」である。

手のひらを思わせるのは、実は手の甲とのことで、世界を内包している表象に近い。

手が合わせることで様々な意味となるすくう。まさにこの本の世界観を表している。

その形だけで容易にすくうを想像できる、この五本の指がぴったりと合わさり、こぼさないよう設計された人間の細部の美しさ。赤ん坊の握りこぶしと見事な対比となっている。

 

※小川洋子さんの文章はとても読みやすいです。普段読書や小説を読まない方でも読みやすい一冊だと思います。お薦めです!