リップスサーフショップが、もうすぐ40周年を迎えるそうです。
オープン当時にお店のシャッターに絵を描いたのが、昨日のことのように思い出されます。サーフショップのお手伝いをすると言っても、就職したわけではないので、お小遣い程度の給料を頂きながら、店番やサーフボードの修理、ウェットスーツの制作をしながら、週末はサーフィン三昧の楽しい生活を送っていました。
約6年間つき合ってきた彼女も、22歳になっていました。
私は、大学を卒業してからもサーフィン中心の生活で、定職に就いたことがありません。
その上、いつも仲間たちと波乗りに出かけてしまうので、あまりデートもしていませんでした。
短大を卒業してからも、ずっとしていた楽器店でのアルバイトを続けていた彼女に、最大の転機が訪れたのです。
結婚です。
それは、突然やってきました。
彼女がアルバイトしていた楽器店に、楽器を納品する営業マンが彼女に一目惚れして猛アタックをかけていたのです。
そして、いきなりプロポーズされたらしく、当時の彼女の気持ちがどのように揺れ動いたのかは分かりませんが、私としては、ある日突然、あっけなく青春ドラマのような恋愛が終わってしまったのでした。
「風」の大ヒット曲である「22歳の別れ」の歌詞と重なり、今でもこの曲を聴くと当時の悲しみを思い出してしまいます。
それまで、好き勝手に生きて来て、中学、高校、大学と、それなりに打ち込むことがあり、青春を謳歌して、楽しく過ごして来たのですが、突然、人生で初めての大失恋を経験したのです。
6年間の楽しかった思い出が蘇ります。
バイクの後ろに彼女を乗せてツーリングに行ったり、冬はスキー、夏はサーフィンに連れて行き、一緒に観た映画のことや、彼女の部屋で聴いたレコード……。
当時はまだCDがなかったんですね(笑)
楽しかった思い出ばかりが蘇り、現実の風景は、それまでのカラーの世界からモノクロのように味気ないものになってしまいました。
夜は眠れずに、後悔と相手の男性に対する嫉妬で悶え苦しむ日が続きます。
ようやく現実を受け入れて、彼女の結婚を祝福出来るようになるまで、まだ数ヶ月もかかったのです。
そのきっかけとなったのは、月並みですが、傷心の旅に出ることでした。
幸い私にはサーフィンがあったので、千葉のサーフィン仲間を頼って、しばらくサーフィンの武者修行に出かけることにしたのです。
サーフィンに救われたと言っても過言ではありません。
池澤夏樹さんの小説で、登場自分の女性が主人公に言う素敵な言葉に出会ったのは、それから20年以上経ってからの事です。
「サーフィンに出会えたら、それでその人生はもう半分は成功なのよ」
出発前に、リップスのケンちゃんのおばさんが、傷心の私を励ましながら、一緒に泣いてくれました。忘れがたい思い出です。
バックパックに少しの着替えと、スケッチブックを放り込んで、電車での一人旅が始まります。当時は携帯もスマホもないので、一人旅は本当に暇でした。
暇な時間を持て余していると、すぐにまた彼女のことが頭に浮かんで、落ち込んでしまいます。そこで、スケッチブックに片っ端から見えるものを描いていました。
まさに、「さすらいのアーティスト」気取りです。
失恋した悲劇のヒーローが、ひとりで旅に出て、さすらいのアーティストになる……。
悲劇のヒロインなら様になるのでしょうが、自分でも自分の女々しさに情けなくなってしまいました。
日が暮れて、車窓から見える夜の景色が、本当に寂しくて、悲しくて、涙がこぼれました。描くものがなくなって、自分の靴を描いたのを覚えています。
こうして、私の悲しみを乗せた電車は、千葉に向かってゴトンゴトンと、深い闇の中を走り続けたのです。