奥にもう一部屋あって、そこはサーフボードを創る為のシェープ工場になっている。
シャイプというのは、サーフボードの材料である、立方体のウレタン・フォームを、
腰くらいの高さの台に置いて、ボードの型に削って行くのだ。
これには、熟練の技が必要で、一人前になるには、3年はかかるだろう。
オープン当時はよくシェープや修理を手伝ったものだ。

ケンとふたりで、インスタントコーヒを飲みながら、一通り昔話が済むと、
ぼくは、マスターの事を聞いてみた。

「となりのマスターって少し変わってるよね」
「ああ、リョウさんか……。確かに変わってるなあ」
「この人形を貰ったんだ」そういってスーツケースから人形を取り出した。
「リョウさんは、昔、師匠について霊的な修行をしてたらしいからな。
その人形がどうかしたんか?」
「うん、ぼくはこの人形に選ばれたらしい」
「選ばれた? お前は昔から、変なもんに好かれよるなあ」
ケンは、そういって大笑いしながら言った。きっと昔の女の事を言ってるのだ。
「今日、俺んとこに泊まるやろ? 早めに店閉めて帰ろか。飯でも食いながら
アキに聞いてみたらどうや」
アキというのは、ケンにしては珍しく、もう十年も続いている彼女だ。
「ひょっとして、今、アキと同棲してる
」そう聞くと、ケンは少し照れくさそうに言った。
「そろそろ年貢の納め時かも知れんなあ」

「そりゃあ目出たい。これでやっとアキの苦労も報われるね」
鬼のように女にもてるケンと10年もつき合うなんて、ノーベル賞ものだ。
アキは本当に献身的にケンに尽くしていた。ケンに新しい女が出来る度に真剣に別れ話の
相談を受けた事もあるが、その都度、彼女はケンと別れるのを思い留まった。
ケンが、アキに聞いてみたらと言うのは、昔からアキには霊感があるからだ。おそらく
自分の未来も見えているのかも知れない。

とくに予知能力が鋭い。
