今回の件は私の問題だった。
今年、大学院2回生の末っ子は就職活動の真っ最中で、東京の大学病院をいくつか受けることになっており、4月に1つ受けて、GW明けには2つを受けることになっているので、移動の長さを考えてこの連休は自宅には帰省しないことが決まっていた。
上の2人の娘も結婚したばかりで、仕事や家のこと、そしてパートナーとの旅行やデートで、実家には誰も寄り付かないようだった。暦通りの休みになった私は、長い休みを夫と2人で過ごさなければならなかった。何も楽しいことがなかった。それが私の病みの原因だった。それなのに、Pさんはまたどこかに奥さんとの旅行の計画をたてているのだろう。そう思うと心が不安でいっぱいになり、夜が眠れなくなった。私はいつか心療内科でもらった緊張をほぐす抗不安薬を飲んで、無理に寝ることにした(普段は眠くなるので服薬はやめていた)。
そんな不安をPさんとの時間で埋めようとしたのだ。私は無理を言ってしまった。わがままを言った。1日だけでいいからと。
案の定LINEでキャンセルの連絡が来た。
「終わった」と思った。
勇気をふり絞って設定したのだ。県外といってもすぐに行ける距離だった。車も私が出すと言った。新しくできた水族館を1周して帰るつもりだった。知ってる人がいる可能性もない。奥さんとの旅行は後半にたっぷり取ってあるのだ。1日、いやたったの半日の予定だった。
冷たいLINEだった。
私たちは基本的に連絡時だけのLINEで、最低でも2往復ぐらいだ。
こういう関係ではあるが、ほかの不倫関係のブログでは常に会話のようなLINEのやりとりをスクショして載せている人もいる。きっと相手の背景も何もかも知り尽くして、思ったことを思ったようにメッセージして、楽しく、時には文句言い合ったり、言い訳や気持ちを綴ったり、愛の言葉をささやいたり、テンポよく会話のようにやりとりしているのだろう。
しかし、Pさんの場合は結論だけで理由も何も教えてもらえない。ただ投げかけられるだけで、それを私が怒らないように受けとめ、相手が返事を書きやすい状況を作らなければならない。ふれられたくない内容にはずっと既読がつかない。それは「察してくれ」の合図なのだ。たったの1往復、2往復のやりとりの中で、私がいろいろなことをがまんし、折り合いをつけ、相手を困らせないように最大限の優しい結論を出さなければならない。
何度も、「このまま返事を書かなければ終われる」と思った。
男性は、生活の中の満たされない部分を不倫という関係で満たそうとする。それはわかっている。だから「何かのついで」とか「ちょっとした隙間時間」だけ会えたらいいのだろう。「大切にしてほしい」なんて願うことは、おこがましいのかもしれない。「会う時間を作っている」と言われたらそうなのかもしれないとも思う。だけど私だって多少の無理はしているし、嘘もついている。
『なんで私のことを1日たりとも優先してくれない、どこぞの奥様のダンナさんのために無償で排泄処理なんかしてやって、楽しくて幸せな気持ちにさせてあげてるんだろう』と思う。結局生活を保障されて、お金と時間をたっぷりかけてもらって、美しいものを共有して、大切にされているのは奥様のほうなのに。
なんのメリットがあって、怒りも拗らせもせず、ものわかりのいい女を演じているのだろう。
今回は、娘たちが誰も帰って来ない中、夫の顔も見たくなくて、その代替をPさんに求めただけだった。今まで長期休みは会えないのが当たり前だったし、私も娘が最優先だったから痛くもかゆくもなかった。だから完全に私のわがままだった。「休日に会ってどこかにおでかけしたい」なんて、言っちゃいけなかったんだ。私が入ってはいけない領域だった。
それに・・・
LINEにとらわれてしまった時間、私は考えた。
私はPさんが好きなのではない。Pさんがほしいのではない。
私はただ、私という人間を誰かのイヤな人間で終わらせたくないだけなのだ。
私という女が、「疎ましがられて」「飽きられて」「捨てられた」女であってはならない。50代も半ばを過ぎ、もう最後の恋愛関係だと思えるからこそ、美しい自分で終わりたいだけなのだ。もう自分を蔑んだり、みじめになったりしたくない。私はもう自分を傷つけたくない。自分の尊厳を守りたい。すべて自分のため。だからこその結論だった。
ただ、自分のほうが損していると思ったり、何もメリットを感じなくなったときは、「もう捨ててもいいかなあ」と思うようになった。それよりももっとやるべきことがあるのではないか。
例えば、図書館へ行けばまだ読んでない本がたくさんある。その世界を知らずに死んでもいいのか。もっと考えなければならないことがたくさんあるはず。もっと、自分のためだけにお金や時間を使わなければとも思う。いやそれよりも、子どもたちに残すお金を貯めておきたい。
私はようやく「性」を手放すときが近づいているのかもしれないと思う。