街では隣を歩かない | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

賑やかな5類の街

 

世間では解禁、とはいえ我が業界はそのゆるみを許さず、マスクと行動制限で検査キットは日常装備。

いまだ抑圧された日々は業種的には当たり前で。

 

初めて来た街の喧騒、道行く人の顔が見え、大声で笑う人のいる景色は

 

「賑やか・・・ですね」

 

「そうだね」

 

少し腰が引け

それもまた、私たちをより安全な自分たちの中に閉じ込めさせる

 

 

 

夜の街を歩く時は、隣を歩かない

少し前後にずれて

 

ひとりずつ歩くのは

百分の一の「・・あれ?」を落とさないように

 

本来なら、わざわざ連絡を取らないと繋がらず、繋げるには少しハードルが高いはずの間柄。

なのに妙に近い二人の気配、とすれば「ん?」と見知った人には違和感を与えるはずで

 

漂わせるつもりなく匂わせてしまう甘い香り、それに気づいてないのは自分たちだけ


過去の恋で、足元をすくわれたことがある。

向かい合っての食事よりも、街を連れ立って歩く時の方が見抜かれやすい

ここは大丈夫、自分たちは気づかれてないと危険閾値を低く見積もるのは、ヤバい。

 

 

本当は、コートの腕に絡まって恋人繋ぎ。それか背中に手を回されて抱えるように歩いて欲しい

ハタチそこそこみたいなイタいベッタベタの甘々願望は、ある

 

しないけど

 

 

人ごみの中、離れて歩けば

雅治は簡単に私を見失う

 

時折、振り向いては「あれ?」ときょろきょろ探す雅治を、3メートル位後ろから眺め歩く。

探して、見つけて、目が合って、ホッとしたように緩み、また前を向き、歩き出す

 

瞬間の感情が出る雅治の目が、振り返るのを待ってしまう

だから危ない そんな無防備は

 

結局

私は雅治に庇護され守られ、

外気に触れないように、その腕の中に囲われ

ずっと目で追っていてもらいたいのだ

 

見ててね、押さえててね、転ばないようにずっとよ

と初めて自転車に乗る子どものような 

 

日常には無い恋

非日常だもの、婚外恋愛は

 

 

 

フロントは静かで

 

 

「おかえりなさいませ」

 

ルームキーを受け取り、乗るエレベーター

 

ここに二人とも泊っているから

もう、ふたりでも、大丈夫で

 

 

閉まったと同時に腰に手が回り、待ち構えたようにぐっと引き寄せられる

 

 

 

「・・・ね、エレベーター内も、監視カメラってあるんじゃないの」

 

「いいよ、もうそんなの」

 

「ちょっとの時間なのに」

 

「ちょっとでも」

 

 

 

 

静かに、エレベーターは上がっていく

 

 

 

 

 

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